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第595夜「撓める」
 なにかよくわからないものを曲げ撓めようとしている。直径16センチほどの棒状の何かに、恥も外聞もなく、噛みつき、固定して、口から等間隔においた両の手のひらで、それに渾身の力をこめる。こめかみと顎がきりきりと痛む。しかし、それが曲がる気配はない。非常に悔しい。しかし、そもそも悔しさを紛らわせるために、この蛮行に及んでいたのではないか。それすらも忘れている。内側から突きあがる煩悶に、床を転げまわる。棒状の何かに噛みついたまま。台所で玩具にじゃれている犬のように。床を転げると気分がいい。その何かが曲がる気配は、やはり、ない。
 結局、その何かを曲げ撓めることに成功したのか否かはわからない。ただ口の端がじんじんと痺れている。
by warabannshi | 2012-08-27 06:09 | 夢日記 | Comments(0)
第594夜「ポチョムキン」
 『戦艦ポチョムキン』の大階段のような、情け容赦のない工場的なデザインの階段。そこを原色の全身タイツで颯爽と下りてくる5人組がいる。秘密戦隊、を模しているのだろう。しかし、どちらかというと、いや、どう見てもショッカー戦闘員である。彼らは颯爽としているが、消耗品らしく、表情を欠いている。胡坐をかいた姿勢で、右足首のくるぶしだけが地面と接触し、そのくるぶしが非自動的に回転することで、滑るように移動する。たまらなく異様である。
by warabannshi | 2012-08-25 06:27 | 夢日記 | Comments(0)
第593夜「暗水」
 段階的に深くなっていく、飛込み型の室内プールで泳いでいる。端が見えないプールには、自分の他には誰もいない。誰かがいるような、水音が、波が、ここには伝わってこない。照明は巨大なプールの底からあえかに射しており、遠く暗い天井に水面の仄かな網目模様を映し出している。うまく潜ることができない。こうやって、あおむけになって浮くことは楽なのに。しかし、水深が5メートルも7メートルもあるこのプールで、潜水を楽しまずにいったい何をするというのか。
 呼子笛が響く。プールの端には、いつの間にか5人の女性の姿がある。高校か大学の女子水泳部なのか。揃いのさえない水着で、ちょっと緊張した面持ちの4人に、1人が何かの競技の説明をしている。呼子笛は、私に向かって吹かれたものではなく、その競技に用いられる合図をやってみた、ということらしい。とはいえ、闖入者扱いされたくなければ、このプールから出ていかないわけにはいかない。おとなしく、水からあがろうと、体を反転させたとき、自分が女であることに気付く。臙脂色の水着は彼女らとおなじだ。いつからだろう。水中深くに沈みにくいもどかしさを感じたときには、すでにこれらの体脂肪が浮力で邪魔をしていたのかもしれない。
「溺れるかもしれないと、肺いっぱいに空気を吸ったら、潜るときに大変ですからね」
 そう、プールの端で先輩らしき1人が言い終わると、4人はめいめい、プールに入る。おっかなびっくり、と言えるほどの慎重さで、こちらに向かって泳ぎはじめる。足の爪先が底につかないのは初めてなのだろう。私は彼女らを安心させるように、肺を空気で半分ほど満たし、潜水する。粘性のある水が、肩をすり抜け、腰のあたりでいったん、体を水面の辺りで引きとめようとするが、それも両脚のひとうねりで振り払う。水は澄んでおり、立体的な遠さのなかで、彼女らがいるのが見える。私は水中で、体を丸めて縮め、近づいてくる彼女らの腹と臍を眺めている。あくまでも室内なので、自分も彼女らも、等しく実験施設の試験体であるかのような、無機質な感覚がある。
 彼女らの思考が水により伝導されるのか、様々なイメージがきれぎれに去来する。――長い黒髪の女の子が布団のなかですすり泣いている。同じ布団に入り、天井を見上げている少しだけ年嵩のもう一人の女の子が、視線を動かさないまま、言う。
「もらい泣きはしないよ。○○は口だけで泣いているから」
 長い黒髪の女の子からの答えは、ない。すすり泣きが、幾分か押し殺されたようになり、しかし、嗚咽がしゃっくりのように目立つようになる。長い黒髪の女の子は、「すべて自分が守った自分」という言葉を核として、何かを言い繕おうとしている。いっそのこと、漫画の文字だけのコマのように、声をなくして言葉だけが暗闇に浮かび上がればいいのに、とも思っている。
 ――あるいは、これは、このプールの水に溶け込んだ以上は、水そのものの記憶なのかもしれない。
by warabannshi | 2012-08-25 06:20 | 夢日記 | Comments(0)
第592夜「忘却」
 A4ほどの紙のうえに書かれた文章を推敲している。たしかに筆跡は私の字で、手書きしたものに間違いはない。だが、タッチパネルのようにブルーブラックインクの塊が、すいすいと紙の上を滑る。指を使わず、眼を走らせるだけで、文字群は、こちらの意図を心得ているかのように、他の文章のあいだに挿入されたり、上書きされたり、適切な単位で分かれたりする。とても面白い。時間の経つのを忘れ、夢中になって推敲して、ついに、満足のいく仕上がりになった。ほう、と気を緩めると、そこで目が覚める。そして、まぶたの裏で推敲していた肝心の文章を、まったく思い出すことができない。
 あれほど、夢中になっていたにも関わらず! ただ夢中になっていたという感触だけを残して、その具体的なことを忘れてしまうということが、なぜありうるのか。あれほど推敲したのに、全体ではなく、その断片だけでも、夢の縁を越える力を獲得しえないのか。あるいは、手つきくらいは覚えていてもいいくらいなのに。
 「この主題で喚起される物語の数は、世界中の神話群をかき集めて比べても、おそらく5本の指に入るだろう」
 出だしはこんな調子だった。もちろん。正確ではない。
 神話ではなく、旧約聖書の話で、論じられていたのはダニエル書だったかもしれない。「突然、空中に現れた指が、壁に意味不明な文字を書く」という主題。あるいは、「その意味不明な文字が、終わりを示す」という主題。

【旧約聖書 ダニエル書 第5章】
 5:1バビロニアの王ベルシャザルは、その大臣一千人のために、盛んな酒宴を設け、その一千人の前で酒を飲んでいた。 5:5すると突然人の手の指があらわれて、燭台と相対する王の宮殿の塗り壁に物を書いた。王はその物を書いた手の先を見た。 5:6そのために王の顔色は変り、その心は思い悩んで乱れ、その腰のつがいはゆるみ、ひざは震えて互に打ちあった。 5:7王は大声に呼ばわって、法術士、カルデヤびと、占い師らを召してこさせた。王はバビロンの知者たちに告げて言った、「この文字を読み、その解き明かしをわたしに示す者には紫の衣を着せ、首に金の鎖をかけさせて、国の第三のつかさとしよう」と。 5:8王の知者たちは皆はいってきた。しかしその文字を読むことができず、またその解き明かしを王に示すことができなかったので、 5:9ベルシャザル王は大いに思い悩んで、その顔色は変り、王の大臣たちも当惑した。
 5:13そこでダニエルは王の前に召された。王はダニエルに言った、「あなたは、わが父の王が、ユダからひきつれてきたユダの捕囚のひとりなのか。 5:14聞くところによると、あなたのうちには、聖なる神の霊がやどっていて、明知、分別および非凡な知恵があるそうだ。 5:16あなたがもし、この文字を読み、その解き明かしをわたしに示すことができたなら、あなたに紫の衣を着せ、金の鎖を首にかけさせて、この国の第三のつかさとしよう」。
 5:17ダニエルは王の前に答えて言った、「あなたの賜物は、あなたご自身にとっておき、あなたの贈り物は、他人にお与えください。それでも、わたしは王のためにその文字を読み、その解き明かしをお知らせいたしましょう。 5:25そのしるされた文字はこうです。メネ、メネ、テケル、ウパルシン。 5:26その事の解き明かしはこうです、メネは神があなたの治世を数えて、これをその終りに至らせたことをいうのです。 5:27テケルは、あなたがはかりで量られて、その量の足りないことがあらわれたことをいうのです。 5:28ペレスは、あなたの国が分かたれて、メデアとペルシャの人々に与えられることをいうのです」。
 5:29そこでベルシャザルは命じて、ダニエルに紫の衣を着せ、金の鎖をその首にかけさせ、彼について布告を発して、彼は国の第三のつかさであると言わせた。
 5:30カルデヤびとの王ベルシャザルは、その夜のうちに殺された。
by warabannshi | 2012-08-20 12:45 | 夢日記 | Comments(0)
第591夜「大浴場」
 広い、呆れるほど広い大浴場のL字型の湯船に、5人の友人が浸かっている。まるでその広さに怯えているように5人は大浴場の出入り口付近に固まっている。友人らはもちろん、怯えているようには見えず、湯気を呼吸して快活である。しかし、浴場の隅のひんやりと湿ったタイルに間違って触れてしまったかのような、ひゅっとした収縮が、その快活のなかに細かい粒のように混ざっている。
「Levi'sのボクサーパンツ、お前のそれは、賞味期限切れだ」
 タオルを腰に巻いた友人Hが言う。湯船の縁の一段高いところに、サウナ客のように座っている。
「腐るものじゃないだろう」
「いいや、腐るね」
 私はかけ湯をして、タイルを踏んで、黙って湯船に入る。ありきたりな挑発というか、からかいもまた、この大浴場が友人Hを通して行っているように感じられる。腹話術師が、自分の声にぴったりな人形を求めるように、大浴場は生きた肉を求めているのである。そう考えた途端に、湯のカルキ臭が、たえ難いほどに鼻をついた。生々しい匂いにむせかえるほどだった。
「もうあがるの?」
 友人Sの声が後ろからする。
「のぼせそうだから」
「太田、すぐに湯あたりするんだよ」
 湯あたりとのぼせは違う症状を指す言葉だ、と友人Hに振り返って反論したかったが、それより私は外の空気が吸いたい。
「のぼせているのが嫌いですね、太田さんは」
 友人Kが畳みかけるように言う。
「そうです。宮沢賢治を聖人視して崇めようとするあらゆるのぼせた努力を無効化するために研究しているようなものですよ」
by warabannshi | 2012-08-17 08:31 | 夢日記 | Comments(0)



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