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第606夜「石鹸」
 非常に寒い国で、教員関連の求人広告をチェックしている。真夜中、部屋は狭いが暖かく、テレビのブラウン管が灯っている。音のないテレビでは、次のような映像が流れている。

【現地語で“設備”を意味する名前の短編アニメ・シリーズの、ひとつ】
 ディック・ブルーナに描かれたような三頭身の少女が、不機嫌な顔をして、象牙色の洋式のバスタブの縁に腰かけている。服を着ている少女の右手には、何かが握りしめられている。眉をひそめたまま、険しい顔でどこか一点を見つめている。しばらくたつと、少女は立ち上がり、次の部屋へと進む(浴室の背景色は緑、次の部屋の背景色はオレンジ)。次の部屋には、初老の男性が目を閉じ、安楽椅子に腰かけている。少女は初老の男性の後ろに立ち、強い語調で何かを話しかける。初老の男性は振り向かずに、パイプをくゆらせている。二人の関係は親子ではないことが察せられる。少女はポケットから、一枚の便箋を取り出す。そして、それを床にたたきつける。不貞を働いたことを暴かれたらしい初老の男性は、しかし表情を変えることなく、パイプを口から離し、少女のほうは振り向かずに何かを言う。弁明なのか、無礼な物言いを窘めているのか、わからない。少女は不機嫌な表情を変えることなく、床の便箋を踏み、初老の男性の背後に立つ。そして、右手に持った四角いブロックを、勢いよく男性の後頭部に振り下ろす。倒れる男性。それを背中から抱きかかえ、浴室に引き摺る少女(それまでの部屋の背景色はオレンジ、浴室の背景色は緑)。
 (…フェードイン)バスタブからは湯気が立ち上り、何かが煮えていることがわかる。少女は不機嫌な表情のまま、大きな柄杓でバスタブの表面に浮いたなにかを掬い取っては、桶に入れている。(…フェードアウト)
 (…フェードイン)桶に入れた何かが、金属製の四角い型に流し込まれる。(…フェードアウト)
 浴室で、三頭身の少女は、不機嫌な顔のまま、全身を泡だらけにして体を洗っている。手にはレンガほどの大きさの石鹸が握られている。少女は石鹸を塗りたくる手をとめ、険しい顔で宙の一点を見つめる。
by warabannshi | 2013-01-24 06:38 | 夢日記 | Comments(0)
第605夜「今遠野」
 真っ暗な坂道を年代物のフィアットで下っている。ガードレールは錆びつき、そこここで途切れており、曲がりきれなくなったときは一巻の終わりである。エンジンブレーキをかけながら汗をかいてハンドルを握っている。とある曲がり角を曲がる。すると、不意に、見渡す限りの広大な稲田が広がっている。青々とした稲田はそれ自体が燐光しているようであり、風もないのに海原のようにうねっている。赤い座布団が、点々と、道路があるべきところに続いている。分厚い座布団は、波打つ稲穂の上に浮いているようでもある。私はドアを開けて、車を出る。辺りはすこし腥い。そろそろと、赤い座布団の上に右足を乗せる。何ともない。体重をかけていくと、まるで座敷に敷いてあるかのように、座布団の綿の厚みよりかは決して沈まない。思い切ってその座布団の上に乗ってみる。そして、次の座布団にくた右足を踏み出し、乗り移る。そして、威勢よく左足を、さらに次の座布団に乗せようとしたとき、とぷりと間の抜けた音がして、私はよくわからない赤黒い液体のなかに落ち込んだ。

【赤黒い座布団のなかで聞いた話】
 雪男のような毛むくじゃらの怪物が、獣害避けのための監視カメラにこのところよく映っており、村ではこの怪物が何を言わんとしているのか、もっぱらの噂である。この毛むくじゃらの怪物は、十年以上前に当時八十二歳になる猟師が、ある日から山に入り、そのまま降りてこなくなったものであるという。監視カメラの映像では猿のように俊敏に走り去る怪物の姿が一瞬だけ捉えられている。伸びきった白い毛により、眼も鼻もわからない。ある風の騒がしい晩、猟師と懇意にしていた男のもとに(この男こそが、赤い座布団を敷いた張本人である)、怪物が現れる。とはいえ、決して開けるなと厳命されてうえで、玄関ごしに声だけを聞いたらしい。「山は荒れた。もう絶交だ」。そう言って、立ち去って行ったらしい。後から猟師の年若い後家に聞けば、いよいよ人語を介せなくなってきたためだろうと。心配させないために、あるいは山の中で自分が襲いかかったなら、遠慮なく撃てということだろうとのことだった。
by warabannshi | 2013-01-20 14:16 | 夢日記 | Comments(0)
第603夜「慈悲」
 海岸線に沿って延びる一本道を、オープンカーで飛ばしている。私は助手席でドアに凭れて、粘着質の風を浴びながら、ビデオカメラで景色を撮っている。昼過ぎから吹き荒れていた風雨もやみ、雲間から海へとレンブラント光が降りている。眠気を催すような静けさである。
 ふと、自動車の横の歩道を見ると、白い尨犬を連れたレインコート姿の二人の幼児が、歓声をあげて雨上がりの空気のなかを走っている。姉弟らしく、姉の方がずっと手にしているリードを、弟は譲ってほしくてたまらないらしい。幼稚園のものなのか、眩しいほどのレモン色のレインコートである。濡れたアスファルトに、新鮮な色が反射する。二人と一匹は、はしゃぎながら、車を追い抜いて行った。
 速度計は時速一〇〇kmを表示している。しかし、尨犬を連れたレインコートの姉弟がそれほどの速さで移動しているとはもちろん思えない。そういえば、当然聞こえていいはずの風切音は、いつからかまったく聞こえない。車は速度を緩めているわけではない。高速をもたらすエンジンの振動は、衰えることなく尻に伝わっている。
 私は、肘をついているドアも、座っているシートも、車も道路も一緒に、大きな穴の底へ、すべり落ちて行くような気持ちがした。
「慈悲の対義語は何だっけ?」
 私は心を落ち着かせるために、同乗者に聞く。
「アポカリプスですよ」
 後部座席にいる、名前を知らない後輩が答える。
「アポカリプスは黙示でしょ?」
「慈悲、という意味もあったはずです。アポは光栄、カリブスは病原菌に感染することを意味していて、感謝すべき死や、病による聖別を表しています」
by warabannshi | 2013-01-17 11:07 | 夢日記 | Comments(0)
第602夜「和毛」
 オフィスで資料をコピーしている。Wordで作業すればいいものを、何の因果か、別の資料から図表を切り抜いてテープのりで余白に貼っている。しかし十分な余白はどこにもなく、図表を縮小するが、そうすると文字がつぶれて用をなさない。
「安全ヘルメットはした?」
 振り向くと、白衣を着た四歳くらいの女の子がいる。いまさっき起きたのか、額に赤い寝跡をつけている。
「カフカじゃあるまいし」
 女の子を安心させるために髪をなで、そのやわらかさに驚愕する。これが和毛というものか! 彼女の顔と手のひらの感覚の前で、私は一枚の薄いコピー用紙のようになる。何かあらぬ誤解が生じそうなので、称賛の言葉を発音しないように気を付けながら、オフィスを仕切る障子を開け、寝ぼけている彼女を仮眠室まで連れて行く。廊下にも、オゾンの匂いがうっすらと漂っている。歩幅のちがいを調整するために、一歩一歩、苗でも植えるようにして歩く。
by warabannshi | 2013-01-16 08:06 | 夢日記 | Comments(0)
第601夜「従業員」
 小雨が降っているせいか、遊園地には見知らぬ3人の友人たちと私以外は誰もいない。辺りは薄暗いが、閉園時間が近いのかというとそうでもない。曇天はぼんやりと明るい。ゴーカート乗り場の柵沿いに歩いていくと、立方体のコンテナが立ち並ぶ、奇妙に曲がりくねった小道に入る。それまであまり気にしていなかったが、私たちの誰一人として傘をさしていないので、それぞれの髪からしずくが垂れている。
 従業員用にしたところで、あまりに狭くて低い金属製のドアを開けると、そのコンテナのなかは小奇麗な中華料理屋である。そこにも、客と思しき人は私たちの他にはいない。店内は外から見たコンテナの体積よりも明らかに広く、しかも、奇妙なことに、壁の外側からは、何組もの家族連れが行きあっているような高低入り混じった話し声や笑い声が漏れ聞こえてくる。
 私は座って乾かすことができることに満足したので、そんなことはどうでもよく、隙間風が入ってきそうな壁から離れたテーブルにつき、それまでやけ気味に何も考えずにいたことをやめ、品書きを見た。すると、注文する前から、料理が運ばれてくる。他のテーブルに客はいないから間違えられたわけでもない、作り置きを出してきたにしては湯気が出ている、いや、私は数瞬と感じられていたこのあいだに、注文したことを忘れたのだろうか。私は名前を知らない友人たちの顔を見る。すると、そこには私と同じか、それより年下くらいの若い父がおり、アナログの黒い一眼レフカメラを両手のなかでくるくると回しながらよくわからない言葉で、しかし軽妙にそのカメラの性能の素晴らしさについて語っている。
 いつの間にか、天井と壁はなくなり、よく晴れたテラスで、灰色のコンテナに囲まれて、私と若い父は向かい合って座っている。テーブルの上には、相変わらず2人分の揚げものの皿と、あと乳幼児が使う、ひっくりかえしても中身がこぼれないストロー付きの透明なマグが1つ、置かれている。いつの間にか真っ白なテーブルクロスが敷かれている。濡れたアスファルトの匂いがする。私はどこかに非常な懐かしさを感じるが、薄い何十枚ものカーテンに遮られているように、それが何のかわからない。
 父の話が一眼レフカメラから水族館のイルカに移ったところで、私は冷めかかっている料理を食べることにする。鳥のささみをチーズと一緒に揚げて、円筒形のそれを斜めに切ったもので、かかっている黒いソースはバルサミコ酢らしく中華料理の要素はまったくない。
 噎せて、思わず咳をすると、白いテーブルクロスに青緑の蛍光色の飛沫が散った。
by warabannshi | 2013-01-02 10:16 | 夢日記 | Comments(0)



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