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第690夜「焚書」
 薬物摂取によって正気を失った青年が、第何十期だかの同窓会によって寄贈されたテントを自分のワンルームだと思い込み、清々しい秋風と琥珀色の枯葉のなか、眼鏡をかけたまま全裸で眠っている。警察を呼ぶべきなのだが、ここは大学の敷地内である。通りがかる学生や教員らは、それぞれの不要となった紙媒体の書籍や資料を、まとめて焼却するためではなく、彼の防寒のために、彼の裸の皮膚に向けてそっと投げかける。
by warabannshi | 2015-02-18 06:23 | 夢日記 | Comments(0)
第689夜「尿」
 名前を知らない大学のキャンパスで、真夜中まで酒を飲んでいる。忘年会なのか知らない。多くの人々が集まっている集会室は、窓を閉め切ってストーブを焚いても隙間風だらけで、事務机に並んだケータリングのアルミ皿には、冷え切った揚げ物の類が厳然と山盛りにされていた。あれは獣医学部が考案した新手の拷問の一種のようにも思える。とにかく、温かい食べ物がないことに、私は腹を立てており、そして尿意のもとに屋外の便所を求めている。畜生道に堕ちた一人の酔漢として暗闇のなかをさまよっていると、不意に男子便所の入り口に立っている。できるだけ肺や鼻粘膜に触れさせたくない臭気に対して、蒙昧に突っ込む合理主義者のように敢然と向き合い、私は排尿のため施設内におもむく。だが、この男子便所はいったいどのような地獄から輸入されたのか。汚泥のこびり付いていない小便器は一つもなく、床には極端に浅い水溜りを尿と結露が作っている。私は21世紀における啓蒙主義者の必要性を痛感しつつ、排尿する。しかし、どうしたはずみかバランスを崩し、盛大に床の腐敗した尿のなかに両手を突っ込んでしまう。慌てて水道の蛇口をひねり、洗い流そうとするも、手のひらから不快極まるぬるぬるはまったく落ちない。痺れるほど冷たい水で手を洗い続けたが、絶望が深まるばかりなので、もうやめる。一刻も早く帰りたいが、すでに終電もバスもない。男子便所に入ってきた中学生男子が、壁にびっしりと貼りついている大小さまざまな蛾に怯え、殺虫スプレーを噴射したせいで、混乱した鱗翅目の生き物が乱舞している。一匹が私の腕に貼りつく。毒蛾でないことを願う。
by warabannshi | 2015-02-18 06:07 | 夢日記 | Comments(0)
第687夜「火事」
 夕暮れ時に起きて、いつものように眼鏡を手探りし、アップライトピアノの蓋の上にあったそれを指でつまもうとするとぼろりと崩れる。ガラス玉のレンズと弦、鼻当てなど、さまざまな金具の一辺に至るまですべて分解されているのである。

 不審を抱かせるのはそればかりではない。街には人のいる気配がない。豪奢な屋敷が並んでいるにもかかわらず、どれもこれも揃ってのっぺりと誰もいない街路にその玄関を開いている。陰鬱な口臭をためこんだ胃袋のようなそれらを何件も早足で通りすぎ、私はある少年が留守をまかされている目当ての屋敷にたどりつく。ドアノッカーを三回叩くと、名前を知らない、しかし古くからの友人である金髪の少年が出迎えてくれる。
「もっと何かこう、お手伝いさんみたいのはいないの?」。私は尋ねる。
「いますよ。いつもなら」。少年もまた、私と同じくコートを着ている。仕立ては比べようもないほど丁寧なものである。
「出かけるの?」
「午睡から醒めたら、五人のメイドが吹き消されたようにいなくなり、屋敷のなかの紐という紐、蔵書の栞からカーテンタッセルに至るまで、すべて緩く結ばれていたんです。眠っている間に誰かが入ってきた痕跡はありませんでした。メイドたちの悪戯にしては手が込みすぎています。気味が悪いので。お茶も出せず、すみません」
 私は自分の眼鏡の話をしようと口を開きかけたが、私の後ろに人影を感じる。
「出かけるのかい?」
 やはり上等な仕立てのコートを着た男が、火のついた大きな蝋燭を片手に立っている。
「ええ」。少年が応える。「何か御用でしょうか」
「キャンドルスタンドがなくなってしまってね。お宅ので使ってないのを貸してほしいのだが――」
「テーブルの上にあるのなら何でも持って行ってください」
「助かるよ」
 少年は目を伏せたまま、そして、男は視線を宙空に泳がせたまま、玄関の前で交差する。逃げるように街路を行く少年に追いつこうと私もやはり駆け出す。振り向くと、レースのカーテンとガラス窓越しに、男が虚ろな顔を変えずに何か瓶に入った液体を撒いているのが見える。私が前を走る少年にそれを告げようとした途端、ぼん、と空気が動き、四方の窓を破って火の手があがる。
「今夜は下宿先に泊めてくださいね」。少年は表面上は動じることなく、とはいえ帽子をしきりに直しながら言う。
「焼かれていなければね」。私はそう答え、そして私自身の答えにぎょっとする。

 無論、私の下宿先は燃えている。窓という窓から黒い煙が吹き出し、見物人たちが早くも輪を作っている。服で惜しいものはないが、紙媒体の書類が詰まった鞄だけは救い出さなければならない。私は少年に待つように伝え、三階まで外階段を駆け上る。まだ火の手は回っていなかったが、廊下の木の隙間から燻製ができそうな煙が立ち上ってきている。私は部屋に戻り、鞄を手に取る。そして、十五分後にはおそらく灰燼となるであろう床の上で、思い切りステップを踏む。
by warabannshi | 2015-02-04 04:50 | 夢日記 | Comments(0)



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