001 『マイノリティーサーカス』
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
おんぼろサーカスのテントの中で、空中ブランコでたゆたっている。
頭倒さに手を垂れて、たった一人でたゆたっている。
そうすると、草深い野のどこからか、こんな擬音語が、響いてくる。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
……え、響いてこない?
でも、ぼくの耳には響いてる。
ぼくの耳には響いてる。
あなたに響かないはずがない。
響かないはずがないよ!
さあ、両耳を澄ますんだ。
さあ、目を閉じて。
さあ、ことばを捨てて。
……って言ってみたって仕方ないよね。
あなた、空中ブランコ、のったことないんでしょ?
やっぱり!
知ってる、知ってるよ!
のらないとわからないよね。
でも、のればきっとわかるんだよ!
いつか世界のみんなを空中ブランコにのせること。
これがぼくの夢なんだ。
ああ、犬だよ。ぼくは、犬さ。
おまけにみんなから変な名前をつけられている。
でも、犬が夢見ちゃ悪いかい?
変な名前の犬が夢見ちゃ悪いかい?
否!
……ああ、ごめん。
ごめんなさい。また、またやっちゃった。
空中ブランコに長く長く揺られていると独り言が止まらなくなるんだ。
止めようと思っても、止まらなくなるんだ。
ぼく、正直、もう空中ブランコになんかのりたくないんだよ。
だって、ほらほら、これがぼくの指だ。
突き指だらけで関節もごつごつ。
爪も、何枚も、はがれました。
硬い床に落ちたぼくの影は、あまりに淡い。
…………。
…………。はあ。
ぼくはいったい誰に話しているんだろう?
ぼくはいったい誰と話しているんだろう?
(ぼくたちに、さ)
誰かの声にぼくが顔をあげると、サーカス小屋は霧のようにかき消えた。
しらじらとした月の光が照らしだしたのは、清浄の地。
世界人類すべてが空中ブランコにのった、すばらしい世界。
皆、静かに笑いながら空中ブランコでたゆたっている。
こっちをみて、手真似につれて、唇を動かしている。
古い影絵でも見ているようだ。
音はちっともしないし、何を云ってるのかわからない。
そっちへ行ってもいいの?
え、飛べばいいの?
でも、あなたたちの空中ブランコまでは、あんまり遠い。
ほんとうに手を伸ばしてくれる?
ほんとうに手を取ってくれる?
ぼくは犬だけど、犬でもキャッチしてくれるの?
まじ? ほんとに?
じゃあ、飛ぶよ?
飛んでいいんだね?
ありがとう、みんな。
ありがとう。ありがとう。
あふれだす歓喜の涙。
気がついたら目の前に信じられない速度で、
床が、
# by warabannshi | 2005-08-03 17:18 | Comments(2)
50「魚類の眼」
 静かな朝焼けの円形商店街を歩いていると、うめき声が聞こえる。
 どうせ酔っぱらいが反吐まみれになってるんだろうと、ふと路地裏を覗いてみる。
 Tシャツ姿の若人が一人、ゴミ捨て場にへたりこんでいる。
 その頸動脈から白く湯気のたつ血が噴きだしている。
 こういうときに医者は強い。
 人体は全血液の三分の一を失うと死に至る。人間の血液量は成人で体重の約七パーセント。このうつむいた青年の体重は目算六〇キロ。血液量は五リットル弱。既出血量はその半分は優にある。
 つまり、この若者はもう手遅れということだ。
 間接圧迫止血法を施すために脱ぎかけたコートをはおりなおす。
 ゴミ袋にもたれかかったまま生温かい肉塊になりつつある彼に必要なのはただひとつ。死体袋だけだ。
 携帯電話をとりだして一一九ではなく、一一〇を押しかけたときおかしなことに気がつく。
 見つけたときから出血の勢いはまったく衰えていない。
 五リットルどころか風呂桶いっぱいの血が出ている。
 もう出血は止まってもいいはずではないか?
 なのに彼は相変わらず、噴水のように鉄分豊富な体液をまき散らしている。
 Tシャツもゴミ袋も細い路地の壁も、すでに体液でぼどぼどだ。まさか。こんなことはありえない。
「そうでもないです」
 噴水男がうつむいたまま、突然口をきく。
「みなさんやってることです。ただ俺は少し派手なだけで、」
 半眼だった魚類のような眼の焦点が合う。
「だから、そんな目で見ないでくださいよ」
 青年はそう言うと、四肢を投げ出した姿勢のままで急速に縮んでいった。
 青年はゴミ袋大になり、手のひら大になり、小さな点になって消えたとき、吹き出たままだった血はやっと止まった。
 残されたのはまっ赤に染め上げられた路地と、ゴミ袋の山と、青年のTシャツとジーパン。
 その血みどろのゴミ袋の一つがいきなり蠢く。
 半透明のビニールを内側から破り、裸の右腕が生える。
 腐汁がビニールの中から飛び散る。
 膨張したビニール袋はなおも震え、身もだえし、ついに破裂する。
 全裸の若者がゴミ袋から生まれて、その裸足でゆっくりと立ち上がる。
 腐敗物と腐汁にまみれた体が、朝日を照り返して真っ白に光る。
 みんながやっていること、とはつまり、この転生のことなのだろうか?
 彼の息が、路地に漂う。白い湯気が濃い。

(2008.02.07 UP)
# by warabannshi | 2004-11-30 23:41 | 夢日記 | Comments(0)
48「ウルリクムミ」
 機械都市。女の子。留守番。片足。

 女の子がスチールベッドに寝ている、。恒温タオルケットは薄い。
 彼女はひさしぶりに植民群島の夢を見ている。
 それが彼女には嬉しくてなつかしい。
 目が覚めたとき、思わず腹筋を使って寝床からはね起きようとする女の子。
 でも、片足なので、うまく起きあがれない。
(一ヶ月もたつのに、しょうがないね。)
 静かに右足だけを立てて重心を動かし、寝台からずり落ちる。
 部屋の中に、酸性の雨音が低く響いている。
(菌類電灯がダメになってしまうのではないだろうか?)
 女の子は床に足を投げ出して、ペットボトルを手に取る。
 残り少ない滅菌水を飲み干す。
(この味も匂いもない透明な液体は、どうも好きになれない。)

(2008.02.07 UP)
# by warabannshi | 2004-11-28 23:18 | 夢日記 | Comments(0)
15「閃輝暗点」
 しゃぼん玉の幽霊が体の中を通り抜けるので、その形状を記憶するのに忙しい。
 そんな漫画家。ボイスレコーダーが手放せない。

(解説)
 閃輝暗点とは、偏頭痛を持つ人の約四割が経験する視野異常。五十二の領域に分類された大脳皮質の奥の奥、第十七視覚野の血管の痙攣によって起こる一時的な幻覚。
 金環蝕のようにキラキラと閃光を放つ。
 そんなしゃぼん玉の幽霊を、近代医学は「閃輝暗点」と名付ける。
 しゃぼん玉の幽霊が頭痛を伴うのは、恐くて寂しいものを見た脳に負担がかかるから。
 カリウムの血中濃度を上げるために野菜中心の食生活に代えると、それは消える。
# by warabannshi | 2004-08-27 01:07 | 夢日記 | Comments(0)
08「準備運動/犬の階段」
(*1)
 漫画の原稿を描いている。あとはペン入れするだけ。
 その前に準備運動がてら正拳突きを数十発やるが、汗が飛び散って原稿が台無し。

(*2)
 「階段」というものをその犬が知らないのは、彼が野良犬であり、一歩も街から出たことがなく、その街というのが、道という道はことごとく石の階段でできた街だったからだ。

(2008.02.07 UP)
# by warabannshi | 2004-08-20 23:59 | 夢日記 | Comments(0)
03「カトンボスモーカー」
 「喫煙者」でも「愛煙家」でもないけれど、数日に一本だけタバコを吸う人は「カトンボスモーカー」なのだ。
 
# by warabannshi | 2004-08-15 00:45 | 夢日記 | Comments(0)
02「雨さえ降れば」
 十六時ごろのネバダ砂漠を、伝令兵が一人でうろついている。身長は一五八センチ。
 迷っているのか、そういう作戦(斥候とか)なのかは不明。
 突然、嘔吐し始める。胃の腑がひっくりかえるように。
 膝が砕けて、吐瀉物のなかに倒れこむ。
 どうあっても熱射病と、水分・電解質不足だ。
 なぜ、砂漠には雨が降らないんだろう。
 地球は青いんじゃなかったのか?

(2008.02.08 UP)
# by warabannshi | 2004-08-14 11:25 | 夢日記 | Comments(0)



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