上野の科学博物館のスタッフをやっている。ずっとスタッフをやっているわけではなくて、臨時で雇い入れてもらったのだ。なにしろ台風が近いから、化石を何とかしなければならない、みたいなことを言われて雇われているのだけれど、化石発掘や保存をしているわけではない。十人ほどの小学生・中学生を相手に学習塾の真似事をしている。それも泊まり込みだ。
雇い入れてもらったのが、何人かわからないが、どうやら先生役をやっているのは、みんなこの臨時スタッフらしい。“生徒”を教えながら、ところどころで“先生”同士の名刺の交換が行われる。うちは名刺をきらしてしまったので、爪の先ほどの青い付箋をつけた、東京メトロの回数券を名刺代わりに渡している。
「そのアイディアはいいね! さっそく使わせてもらうよ」
と数学担当の名前を知らない臨時スタッフ(男・二十代中頃)が言う。
でも、回数券を使われてしまったら、名刺としての機能を果たさなくなってしまう。
アイディアを使わせてもらう、という意味なのだろうか。でも、回数券は使うためにあるのだし、使ってしまったらなくなるから、やはりどうだろうと思う。
科学博物館に、どれくらい居るのかわからないけれど、食堂のメニューはあらかた食べてしまって(定食系→肉系→魚系→サラダ系→…)、へんてこなものしか食べていないものはない。
「じゃあ、この梅チリソース茶漬けにする」
臨時スタッフをやっている友人Gがやはり、全メニュー制覇に向けて、おいしくなさそうなメニューにチャレンジしている。
うちもさっそく…、と思ってメニューを開くと、誰かが(従弟が?)お茶をこぼし、靴下をはいた私のつま先にもお茶はかかったが、まったく濡れた感じがしない。