元彼女Kに、刷毛(?)が束ねられている柄の部分を、さらに束ねられた五本の長箒の図柄のシールをもらう。シールの大きさは、七センチ四方くらい。貼りつけると、台紙となっているシートがはがれて、“束ねられた五本の箒”の図柄だけが、残る。そういうタイプのシールは、よくある。
そのシールはものすごい限定品らしく、プラットフォームから、電車に乗って別れていくKに、「使わないでね」と約束させられる。
「なんで?」と私。
「限定品なんだってば。たくさんあるのかもしれないけれどね。いや、もちろんあるはずなんだけれど。手元にあるのは、その一枚だけだから。……」
そのあともKは何か言っていたのだけれど、Kを乗せて電車は出発する。
Kを見送って、さっそく“束ねられた五本の箒”を貼りつけられそうな場所を探す。プレゼントされたものなのだから、使わないわけにはいかない。それに、限定品、プレミアだからといってむやみに珍重するのはどうかと思うのだ。
とはいえ、ものすごい限定品なのだから、ありきたりの場所に貼ってしまってはつまらない。
そこで、私の左手の甲に貼りつけることにする。
駅から出ているバスの後部座席で、がたがたと揺られながら、慎重にシールを貼り付ける。“束ねられた五本の箒”の、“箒”の掃く部分が、右向きになるようにして、ぴったりと貼る。
そして台紙をはがすと、“束ねられた五本の箒”の図柄は、いつのまにか行書体で書かれた、縦書きの二行の意味不明な文字の連なりになっている。
縦書きの二行の文字の連なりは、またたくまに書き足され、左腕を覆いつくす。しかし、私の免疫系統とそれらの文字列はベストマッチしているらしく、違和感はない。文字列は書き足されつづける。心臓に達する。