「四匹の蚊が飛んでいて、刺されたのは一ヵ所。この場合、四匹全部を叩くか、自分を刺した蚊が見分けられないので立ち去るか、どっち?」
この問いかけに、私は前者、彼女Fは後者の選択肢を選ぶ。
「太田さん、それでも仏門?」
Fがなじるように聞く。不殺生戒を守れ、ということを言いたいのだろう。
「自転車に乗って国道を全力で走っているときとかなら、後者を選ぶかな」
長い言い争いになる予感がしたので、譲っておく。
Fは私の答に満足したようで、呼吸法のトレーニングを始める。私も安心してネットで検索をしはじめるが、デタラメな結果しか出てこない。(「宮沢賢治」で検索をかけると目玉の落書きの画像が出て来たりなど)
悪戦苦闘していると、背中に衝撃。Fがベッドの上から枕を投げたのである。
「なに?」
Fが指差す網戸を見ると、それ自体がもう一枚の網戸のように、びっしりと無数のハマダラカが、網戸のこちら側にとまっている。