若い牡の黒猫のもとに「ピアノ、語学に堪能な方ならいずれでもよし」と書かれた手紙が届く。何かの間違いだろうと思い、差出人の住所を訪ねる。
「あなた、語学はいかが?」
ドアの向こう側から問い掛けられる。嘘をついても仕方ないので、いましゃべれていることが奇跡的だと思う、と答える。
「ではピアノは」
もちろん弾けない。
「お引き取りください」
帰ろうとする彼と入れ替りに、別の牡猫がドアの前に立ち、やはり何か問答を交わしたあとで、ドアの隙間から向こう側へ滑り込む。それほど時間が経たないうちから、嬌声が聞こえはじめる。
嘘をつくべきか、つかざるべきか。彼は若く、恐れを知らなかったため、その選択をコイントスの結果に委ねることに考えが至らなかった。