大ケヤキの剪定が行われているというので見物に行く。こんもりした深緑の山は、八十本ほどのケヤキが隙間なく密集して茂っている姿で、諸々の幹は一つの株を同じくするため内奥まで植木屋が入ることはできない。
揃いの半纏を着た若い植木屋らが、枝に巻きつけた縄を自身の体にもまきつけ、詔を唱いながら外側の枝の剪定をしている。それをまたぐるっと見物人らが囲んでいる。これは神事なのだ。
「まあ、二月までかかるだろうね」
隣りのカップルの男性が言う。ぽかんと口をあけている。
「写真をとっても、なんで写真をとったのか、後からわからなくなるだろうな」
試しに手元のデジカメで大ケヤキを撮ってみる。すると、ケヤキの枝の葉々の代わりに意味不明なマークが写る。黒地に、微小な「K」「O」の金文字群で構成された一つの茶碗から一すじの白い湯気がたちのぼっていて、湯気は「よる」と行書体をえがいている。
「K先生が酒を飲みながら作ってくれた、君のシンボルマークだよ」
いつの間にか目の前にはK先生がいて、誰かに後ろから突き飛ばされるようにシンボルマークの御礼を求められる。
秀逸なデザインが有りがたかったため、自発的に、御礼を言いたかったのに、と思う。