音声入力ソフトAmiVoiceを買って、その性能の高さに驚いたことは、以前にこのブログでお話ししましたが、このAmiVoiceを使って、これからは「基本的に文字入力をキーボードではなく音声入力で行うこと(夢日記を除く)」を、25歳からの方法論的抱負としたいと思います。
肉体という、強固な、寝ても醒めてもはなれがたい建築物を通して、「声に出して書く」ことで、現行の文体がどのように変わっていくのか。どのような変化を余儀なくさせられていくのか。それが楽しみです。あと、この肉体の精度と機能も知りたい。これはキーボードに向かうよりも、発声したほうが、すくなくとも私の場合は、圧倒的に高い有効数字でわかります。滑舌が良い(=誤入力が少ない)のはどの時間帯なのか。自転車で長距離を走ったあと、どれくらい適度な興奮は持続するのか。ビールを飲みながら話す効果はどのようなものか。「声に出して書かれた」テキストの固有な調子を削がないような推敲・添削とは……、などなど、試してみたいシチュエーションや実験・観測は山ほどあります。あと、ライブコーディングみたいにネットラジオと連携させて記事が書かれる実況中継もやってみたい(というか「実況中継」がそのままテキストになるのですが)。 じつは四年ほど前からこの「声に出して書く」方法は構想していたのです。が、 例えばIC レコーダで一時間ほど声を録音した場合、テキストデータに起こすのにだいたい四時間から六時間くらいかかってしまうのですね。なので、面倒くさくて、結局放置して、死蔵、ということがつづき、頓挫していました。だからこの音声を直接入力できるソフトが可能にしてくれた選択肢は、どれもこれも本当に豊かなものです。 ところで音声入力ソフトを使ううえで、「声の書き込み」ができる「場所」は重要なファクターとなります。一つは、べらべら独り言をしゃべっていても迷惑でない、そして雑音が入ってこない、ある程度防音されたところ(つまり自室)が、主にこの「声に出して書く」舞台となるということです。まあ、 IC レコーダーで録音すれば、屋外で「声に出して書く」困難さもわりと解決することができるような気がします。雑音の問題は依然として残りますが……。もう一つは、「場所」というファクターが、どのようにテキストに影響を与えるかについてです。これは常々、実験したいと思っていたことです。宮沢賢治は岩手・花巻の農村を早足で歩きまわりながら『春と修羅』をメモ帳にシャープペンシルで書きまくっていました。西欧美術史において、19世紀中ごろからバルビゾン派が、アトリエで肖像画などを描くことが常識だった絵画を、郊外で風景を描くことができるものへと、その方法論的な選択肢を根本から作り出したように、日本文学史においてもまた、モバイルや、こういう音声入力ソフトの技術的発達によって、ある風景・風土のただ中において書かれた散文作品を作り出すことが可能となることでしょう。(郊外での絵画制作は、「チューブ入り絵の具」の開発という技術的発展が可能にしたものです)テクノロジーはそのようなやり方で、私たちに影響を与えます。21世紀、小説家はその執筆において、ICレコーダを片手にお気に入りの場所に行くことが、何より大切なことになるかもしれません。 ICレコーダを片手にもつ小説家が練磨しなくてはならないのは、何よりもその「語り」です。太宰治あるいはカムイユカラの歌い手のように、トリュフォーの『華氏451』に出てくる"本人間"(書物を読み、所有することを禁止された近未来において、書籍を丸ごと暗記する人々)のように、肉体という建築物の構成要素を言語で賄わなくてはならなくなるでしょう。同時に展開する理路の矛盾にどもったり、言いよどんだり口篭ったりしながらそれに耐えることが、最適な文脈に沿うことを可能にするのではないかと、いまはそう思っています。
by warabannshi
| 2010-02-01 01:26
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