激烈な呼吸困難におそわれてチアノーゼを起こしている。気道が腫れあがってわずかな隙間しかなく、息を吸うたびに笛のように鳴る。呼吸するそのことで疲弊し、息がきれるが、入ってくる酸素の量は絶望的に足りない。舌が無自覚のうちに飛び出して、そのせいでまた咳きこむ。咳きこむとそのあいだは息が吸えない、リズムが狂う。
転げまわって苦しんでいても、母N、弟Yは「風邪薬を飲めば?」と頼りにならない。
這いながら洗面所に行き、ビフナイトをチューブから絞って舌の付け根に塗る。すると、嘘のように腫れが引く。
――この呼吸困難の原因は、戦争で徴兵された、美術学校の学生たち(99年期)の遺作群が、燃やされてしまったことによる。燃やしたのは私ではないが、祟りはいつも不条理におこる。