京都の街中にある居酒屋で、研究室のメンバー十人余りで飲みはじめる。たぶん打ち上げである。
「太田君、私が帰国する前に、訳を返してね」
そうGから言われるが、なんの翻訳だかわからない。
「西武遊園地のボートの上に置き去りにしてきたのと違いますよね?」
「いや、大丈夫ですよ?」
そうこう話しているとみんなの生ビールが運ばれてくる。しかし、驚くべきことに生ビールの入った中ジョッキは、どれもこれも氷が盛られている。かちわりビールである。
「すいません、ビールなので、氷は抜いてください」
そう言うと、バイトの女性は無表情なままかちわりビールを回収する。愛想のない人だ、と思っていると、氷を抜かれたかちわりビールがまた運ばれて来る。
つまり、すでに発泡をやめている黄色い液体が、氷のぶんの体積を引かれ、規定の半分以下の量になって、ジョッキなかで波打ちながら運ばれてくる。
「少ないですよね?」
ジョッキを配り始めたバイトの女性にまた私が指摘すると、こんどはあからさまにムッとされる。
「氷なしで、みんな注ぎ直してきてください」
ふと、この待遇が有名な「いけず」か、と気付く。