ポリネシアらしき南海の島々で行われている、伝統的な漁を、動画に録らせてもらっている。二隻の木製カヌーのそれぞれで、大きな網の両端をもって準備し、勢子が海に潜って、獲物をその網のほうに追い立てるというもの。
お前もやってみろ、と漁師の少女に現地語で言われたので、カメラをもって、潜る。
青く透き通った巨大な空間に、レンブラント光線のような光の柱が何本も、深みに向かってまっすぐに伸びている。距離感がまったく失われる。恐怖で身がすくみ溺れないように、体が反応したからだろう。静かで、古代の神殿のようですらある。
それにしても、魚なんていないよ、と少女に言おうとして、私は見る。全長六メートルほどの黒いミジンコ様の甲殻類が、一匹、青い空間を漂っている。
結局、そのミジンコもどきを捕ることはできなかったが、漁師たちは皆、気にしていないようだ。
「このまえ“クマ”が捕れたときはすごかったんだよ」さっきの漁師の少女が説明してくれる。あれはクマというらしい。
「殻のなかの体液を吸い出してスープにして飲んだら、食べた人がみんな発情しちゃって、裸のまま漁に出る人も多かったんだよ。カレーを哺乳瓶で飲んだりとかね」