全寮制の巨大な高校。小樽・オルゴール館を二十倍くらいの規模にしたようなキャンパスのあちこちで、粛々と「脱走」の準備が整えられている。数十人で行われるらしい「脱走」の、一つのパーティである私や友人I、同僚N(全員高校生に戻っている)は、看守たちを無効化する役目を担っている。
「今日は合格発表の日だね」小柄でぷっくり太った看守が、渡り廊下でぼんやりしている私に声をかける。「エントランスは大変な騒ぎさ」
私は看守に当て身をくらわせる。そして、気を失った看守にエビアンのペットボトルに入れた焼酎を振り掛ける。
これで「脱走」が失敗しても、私の退学は確定だろう。Iの部屋に走って向かいながら、何人かの親子連れの受験生らとすれ違う。落ちたのだろう。青ざめて無表情な子もいる。この子は、私たちを正気とは思わないだろうな、と思う。
Iの部屋に戻ると様子がおかしい。体育座りで頭を抱え込んでいる。
「どうしたの?」
「彼、教員試験に落ちたみたいなんだ」
「免許なんて意味ないだろ」
「君は受かってるよ」Nは顔をあげて、一枚の書類を私に差し出す。「さあ、ここに納印するんだ」
私も教員試験を受けていたとは驚きだ。なんだか気が進まないが、それが「脱走」を続けることに関してなのか、それとも納印することに関してなのかわからない。遠からぬうちに、私の名前もクレジットされた連名の声明文が読まれるはずである。そうなったら、この教員免許も剥奪ということになるだろう。
「気がすすまないよ」
私は所定の欄にプラスチック製のハンコを押す。