中国人の学生で混み合っている学食で、弟Yと、誰か女性を待っている。天井の高い室内は、扇風機がいくつか回っていて、魚醤くさい。
学食のメニュー表には、少数民族の伝統的な調理法を用いたものが、なかなか口にできないような名ばかりが並んでいる。
「Y、何食べた?」
「カツカレー」
弟は好奇心に乏しいやつだと思う。
「ちょっと追加注文してくるから」そう言って、カウンターに行く。
メニュー表を見ながら吟味していると「×××スパゲティがいいよ」と後ろで日本語が聞こえる。振り返ると、アフロヘアの四十代くらいの巨漢が笑っている。何と言ったか、食堂が騒がしくて聞こえない。
「なめたけスパゲティのことですか?」と私。
「そう、それ」
なめたけスパゲティを注文すると、回りでクスクス笑いが起こる。これは、不味いのか?
「失礼だけど、あんた、あまり冒険したことないね?」
カウンターの調理係の女の子にも笑われる。
盛りの良い皿を持って弟Yのテーブルに戻ると、さっきの巨漢がいる。
「不動さんっていうんだって」
そう弟が紹介する。不動さんと名乗るその巨漢は、私のなめたけスパゲティを指差して、こう言う。
「そのキノコは死骸のうちに入るのだろうか、ね。出汁をとられた蜆は確実に死んでいるが」