超高層ビルの一階にある事務所で、友人Sと『マザー2』を交替でプレイしている。往年の名作に退屈することはないが、すでに何度も全クリしているのである。
他の刺激がほしい。胡座をかいてコントローラを握る友人Sの後ろに私は座る。そしてその背中に抱き着く。
「勘違いしないでね」
Sはゲームを続けながらクールに言う。
「抱き枕として最高のサイズだよ」
そう言いながら私はちゃっかりSの体温を喜び、心拍数を数える。乳首、そして肋骨の硬さを触診する。
満足して吹き抜けの天井を見上げると、超高層ビルの鏡のような壁面が曇天に向けて、深く深く伸びていた。地面に仰向けになった私は重力の恩寵を失い、はるかな成層圏へと、限り無く落下していくような恐ろしい錯覚に捕らわれ、両足の指を固く固く丸めた。
「どうしたの?」
「いや、ビルの窓硝子が剥れて落ちてきたら…、って想像してた」
大の字のまま惚けたように私は言う。私たちが地面に縫い止められていることに感謝し、つりそうになった腓を擦る。
「じつはさっきセーブデータ、消えちゃった」
「なんと」
「もう一度初めからやる?」
「いや、何度もクリアしてるし良いでしょ」