高校の体育館でバレーボールの練習をしている。私は高校生になっており、高校生のクラスメイトたちと一緒に授業の一環であるトスを練習しているが、なんとなく皆『ビバリーヒルズ高校白書』というかアメリカ西海岸風ののりである。体育館も、白色電灯が一寸の暗がりもないほどに光を放ち、内装にはさりげなく蛍光色が使われている。
「見ろよ」名前の知らない友人が言う。「アイツのトス、昨日のロボコンに出てたロボットにそっくり」
そちらを見ると、やはり高校生になった友人Sがトスの練習をしている。へっぴり腰で、ぎくしゃくしている。
「「トス」はもともとスペイン語で「野菜泥棒」って意味、ボールは市場で盗んだキャベツのようなものだから、あれくらいおっかなびっくりでも語源的には間違ってない」
私はよくわからない弁護をする。
「人間にコスプレしたロボットだよな、うん」
そして名前の知らない友人は聞いてない。
私は友人Sのもとに行き、彼に助言をする。
「ビートルズを歌うんだ。『イエローサブマリン』でも『オブラディ・オブラダ』でも何でも良い。欧米由来のたいていのスポーツは、ビートルズのリズムに乗ればスマートに動けるようになっているんだ」
「そうなの?」
友人Sはさっそくト短調の旋律をつぶやくように歌いはじめる。
「それはなんて曲?」
「『キャッチャー・イン・ザ・ライ』だよ、ビートルズの」
しばらく私は自分のトス練習に戻っていると、体育教師がやってきて、言う。
「おい、Sに「歌え」って言ったのはお前か、太田」
「そうですが」
「あとで体育科職員室に来い」
ご立腹なのか、そのまま彼は立ち去る。
名前の知らない友人が駆け寄ってきて、釈然としない私に声をかける。
「バカだな、思想的に問題があるに決まっているだろ、ビートルズなんて」
「七〇年代に十代だったおっさんは、みんなビートルズが好きなのかと思っていたよ」
「七〇年代はもうレゲエだろ。あと北島三郎「函館の女」とか。「長崎旅情」とか、そういうのが良いんだよ」
だが、「はーるばるきたぜ函館ー」を歌いながらバレーボールのトスができるかといえば、疑問を抱かざるをえない。