【告知】日本ラカン協会第9回ワークショップで発表させていただきます。
 日時:2010年9月12日(日) 10:00~17:00
 場所:専修大学神田校舎7号館774教室(7F)
 (〒101-8425 東京都千代田区神田神保町3-8)
 参加費:無料

 日本ラカン協会では、公認読書会において一昨年より『エクリ』読解に取り組んでまいりました。最初のテキストを「《盗まれた手紙》についてのゼミナール」に定め、ゆっくりと時間をかけ読み進めてまいりましたが、今夏、読了間近となったため、この読解成果をもとに、自由に議論を行い、相互に理解を深めていく場として、今回のワークショップを企画いたしました。
 まず午前中に、「《盗まれた手紙》についてのゼミナール」について読書会参加者有志による研究発表を行います。次いで、午後からは、これをより広いコンテクストに位置づけるべく、気鋭の文学研究者、河野智子・斉藤毅・野網摩利子氏を提題者としてお招きし、精神分析と文学の境界領域についての議論を深めて行く予定です。
 どなたでも参加可能ですので、ふるってご参加下さい(参加費無料)。

午前の部 10:00~13:00
テーマ:「《盗まれた手紙》についてのゼミナール」読解

(各発表 20~30分、質疑応答30分)

発表者:数藤 久美子(大阪市立東生野中学校教諭)
    「手紙の宛先-手紙が置き換えられる三つの場所」

発表者:太田 和彦 (東京農工大学農学府博士課程)
    「『《盗まれた手紙》についてのゼミナール』に関する諸言及の整理の試み
     ―なぜ『エクリ』の冒頭は「ローマ講演」ではないのか?―」

発表者:中村 亨(中央大学商学部教授)
    「『《盗まれた手紙》についてのゼミナール』における
        デュパンの<情念の激発>について―空白を埋める想像」

午後の部 14:00~17:00
テーマ:「Lettres―文字・手紙・文学」

(各提題40 分、質疑応答:全体で60分)


司会:原 和之(東京大学)

提題者:河野 智子(明治大学兼任講師)
    「ポーの『盗まれた手紙』とオートマトン」

概要:ポーの物語には、特異な分析能力で難解な事件を解決するデュパンが登場する。デュパンは精神分析家のイメージを持っているが、分析能力を発揮するときの彼はまるで機械人形のようであり、「メルツェルの将棋指し」に登場するオートマトン(自動人形)を連想させる。この人形が世間の注目を集めるのは、正確な計算を行うからではなく、人智が関与して作動する機械であるがゆえに、不確実性を伴うからだ。「盗まれた手紙」では、数学的に推理する警察は捜査に失敗するが、その原因は、一つの原理に固執して思考を枠内に限定したからである。そもそも精神分析家とは、感情を伴う人間ではなく、役割、機能であるべきだとされているが、その機能に徹することでどんな効果が得られるのだろうか。本発表では、オートマトンとして能力を発揮するデュパンに理想の分析家像を探りながら、オートマトンが孕む二重性や、数学的思考の枠を超越する高次の原理について考えたい。


提題者:斉藤 毅(獨協大学非常勤講師)
    「文字と時間―1930年代のマンデリシターム」

概要:ラカンの「『盗まれた手紙』についてのセミネール」は、ポーの作品をなによりもフィクション(小説)、そしてドラマとして扱い、分析していますが、そこで展開されていることは、詩とは何の関係も持たないのでしょうか。ここではこの問題について、ロシアの詩人マンデリシタームの1930年代の創作を例に考えてみたいと思います。詩は投瓶通信であると述べていたマンデリシタームは、スターリン風刺の詩を書いたために逮捕され、1938年に収容所で死にました。こうした詩人の運命は、ラカンが「セミネール」で手紙=文字=文芸について、また警察を含めた権力について語っていることと触れあうところがないでしょうか。さらに、「セミネール」ではシニフィアンと時間との関わりが重要な論点となっていますが、この点に関し、1930年代のマンデリシタームが「証言者」として生きた時間性(時間のあり方)にまで踏み込むことができたらと思っています。


提題者:野網 摩利子(東京大学助教)
    「言葉から文字へ/文字から言葉へ─漱石後期小説の運動─」

概要:夏目漱石『明暗』では登場人物間のさまざまなやりとりで意味の〈穴〉が浮上してゆく。本発表はこのような意味の空部を漱石がどのように小説作りに活かしたかを考察する。
 他者の思惑への反応を小説で念入りに記す場合、手紙への反応を取りあげるのが恰好だ。漱石は『彼岸過迄』『行人』『こゝろ』などで、他者の疑惑の一部を解く説明的要素を手紙に持たせてきた。『明暗』においては、疑惑を刺激し、拡大する手段として手紙を使用している。
 手紙が移動するのは空間ばかりではない。登場人物の記憶想起に重点をおく漱石の後期小説で、手紙は登場人物の現在時に過去を呼び起こし、現在から過去を意味づける手段である。

*** *** *** *** *** *** *** *** ***

 今回のワークショップの発表はどれもこれも、ラカンにある程度親しみをもっている方には刺激的だと思います。超絶的な難解さで知られる『エクリ』。その冒頭を飾る「《盗まれた手紙》についてのゼミナール」。おそらく初心の一人が読みこなすことは(誤読することさえも)困難なこのテキストを、ほぼ二年半をかけて読みほぐしてきたそのまとめなので、“噛んでふくめる”ようなわかりやすさを期待できると思います。むしろ、“噛む”場が、このワークショップかもしれません。私の発表は、ちなみに、わりと“素材そのまんま”です。歯と顎に自信のある方のご参加をお待ち申し上げます。
by warabannshi | 2010-09-06 12:51 | その他
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