二十年前の神楽坂のあたりにある、場末な感じのテーマパークに来ている。
ここには幼いころ、故祖父Cと来たことがある。そのときとまったく古びさが変わっていない。読み古した漫画本(『おそまつ君』のわら半紙のような粗悪な紙に印刷された単行本)の匂いがするというか。書架にしまわれたままのい昆虫図鑑のような人知れず感があるというか。
私は両腕で段ボールの箱を抱えていて、まだ誰もいない朝ぼらけのテーマパークをうろうろしている。段ボールは朝露ですっかり湿気ており、八方の角は潰れ、下面以外の五つの面は内側にたわんでいる。この段ボールを抱えていることと、銀色のジャージを着ていることで、まったくテーマパークの客のように見えない。が、私はたしかに、昨夜はここで泊まったのだ。
この名前の知らないテーマパークの宿泊施設は、やはりおんぼろの雑居ビルである。隅なんかはことごとく埃がたまっていて、エレベーターは煙草のにおいがする。雀荘がないのは不思議なくらいである。故祖父Cと、ピンク色のスパゲティを食べた食堂でいまは茶漬けを食べ、そのあとで、やはり昔「ウルトラマン」の対戦型アーケード・ゲームがお気に入りだったゲーセンを通り過ぎて、部屋で寝た。
でも、崩れかかった段ボール箱を抱えている私は客のように見えない。
従業員に出入りの業者だと思われて、失敬な態度をとられたらどうしよう。このテーマパークにいまさら不快な思い出が出来てしまう。ぐるぐる回る系の多いアトラクションは、どれもこれも紫外線の影響で色が褪せてしまい、ぼやけている。
私はとにかく、段ボール箱を放置できるところを探し、事務的なエレベータに飛び乗る。
ドラッグストアの階についたとき、降りた青年がばったりと顔から前のめりに倒れた。
なにかのパフォーマンスかと思ったが、そうではない。動かない。扉が閉まる。
「なんで踏み台がエレベータの前なんかに置いてあるんでしょうね?」
エレベータの箱のなかのスーツを来た従業員が言う。
「ばか、あれは踏み台じゃなくて踏みあがり健康器だ。もっとも、なんであんなところにあるのかはわからん」
私にはわかる。あの踏みあがり健康器は、やはりそれを持て余してうろうろした中学一年の私が放置していったものである。