Sさんの落語に関する講義を聴きに大教室に入る。大教室は廊下よりもさらに冷え冷えとしていて、ところどころで影が球状になって凍り付いている。やけに包帯を巻いた人が多い。両頬を切り裂かれて、歯が露出しているひともいる。レンガの投げあいでもしたのだろうか? と思う。
Sさんが入ってきて、講義が始まる。「死んでいる俺を背負っている俺はどこの誰だろう?」という粗忽長屋のサゲの研究。「(ある対象について)わかっていると思っている俺をわかっている俺はどこの誰だろう?」「(ある対象について)わからないと思っている俺をわかっている俺はどこの誰だろう?」というバリエーションが黒板に書かれる。
「自叙には多かれ少なかれこの問いがつきまといます。ニーチェの『この人を見よ』を読んでください。“死んでいる俺を背負っている俺”についてを、自らの手で自らの墓碑に刻むこと、これは完全に技術的な話です」
講義が終わり、トイレに立つ。
四つならんだ一番奥の小便器だけ異常に大きく、しかも大部分は床にめり込んでおり、高さ三メートルほどから放尿しながら、足を滑らせれば死ぬな、と思う。