狙撃兵が一区画に一人ずついるような、物騒極まりない村を旅行している。なぜ旅行しているかは知らない。一刻も早く帰りたい。雨戸が閉切りの旅籠に泊っているのは私だけ。ラーメン一杯が現地通貨換算で5000円近くする、観光客相手の店で、主人は無口である。
ノックが聞こえる。十歳くらいの少数民族の戦災孤児が入ってきて、ラーメンを注文する。死にそうな仲間に食べさせるのだという。新手のタカリかと思いながら、彼女に一抹の真摯さも感じ、ラーメンを奢る。
すると今度はツイッターのアカウントを貸せと言われる。この街で銃と毒に追われている、孤児と野犬たちの惨状を世に広く知らしめるためと言う。
さすがにそれは拒否すると、相手は念話で私のアカウントとパスワードを素早く読み取る。念話が使えればツイッターなど必要ないだろう、と思いながら、TLを見ると、日本の国会中継への野次や、画家になりたいとの願望や、自由律俳句が、だらだらと私の名義で書かれている。
「話が違う!」
乗っとられたアカウントで、必死に弁明を試みるが、無益。「太田本人のツイートには最後に署名をつけます」と但書きしても、次のツイートでは孤児が私の署名をつける。