夜、琵琶湖の南を二両編成の私鉄に乗って、東に向かっている。明日までに大学に着かないと解雇されるので、急いで欲しいが、この路線には当たり前のように各駅停車しか存在しない。
真っ暗な無人のプラットフォームに律儀に止まる無為に、絶叫したくなる。
「なんか熱っぽい…」
ボックス席の対面に座っている、名前を知らない私の娘がぼんやりと呟く。額に手を当てるとたしかに熱い。
娘を背負い、次の駅で降りる。六歳なのに、熱で気化しつつあるのかと思うほどに軽い。駅の窓口に行き、近くに泊まれるところはないかと聞く。
「お一人様、一万三千円の宿ならご案内できますが」
高い。が、背に腹は変えられない。地図をもらって、車道しかない国道の路肩を歩く。琵琶湖がのっぺりと右手に見える。娘の息が首筋に熱い。
「セブンイレブンって、閉まるんだね…」
確かに、コンビニが一件、潰れている。それを彼女の末期の言葉にしないように、足を早める。