温泉と予備校が一体化したような保養施設に来ている。『マザー2』のグミ族の村のような趣で、東屋やちょこんとした木造二階建てが立ち並ぶ。
「まあサウナにでも入っていてよ」
高校のときの名前を忘れた友人が、ここの経営者の息子だったらしく、ジャングル・クルーズの拠点になりそうなヤシ葺きの小屋に連れてきてくれる。
礼を言って、中に入ると、脱衣所に、ドアノブが外れかかった部屋があることに気づく。
そっとドアを開けると、六畳ほどの部屋の壁一面が、本棚になっていて、漫画の単行本がずらっと並んでいる。二千冊をくだらないそれらは、しかしシリーズも巻数もばらばらで、背表紙のランダムな色彩で私は、バランスを失う。
倒れかけた右手が、たまたま『ドラえもん』2巻をつかんだので、開いてみる。見たことがない、グロテスクな筆致で、「しずかちゃんが道具の副作用で見かけだけ高齢化し、誰にもわかってもらえなくなる」など、救いのないな話が続く。
ふと、ここに集められた作品は、「漫画家が狂気に侵されかけたときに掲載したもの」のコレクションなのではないかと気づく。検証のため、本棚から何冊かを抜き出し、カバンに詰める。