ジャガイモほどの小さな牛頭馬頭が五十人ほど、部屋の床に蝟集しており、歩くのは困難を極める。彼らは彼らなりのテリトリーをきっちりと守っているらしく、私がそちらに足を踏み入れると非常にいやな顔をする。しかし、床に投げ出してある私の革ジャンは、牛頭馬頭たちのいるところを通りぬけないと手が届かない。玉砂利を口に含むような思案の末、私は突破することに決める。
暗いので、誤って彼らを踏みつぶさないかと心配であるが、うまく壁際の本棚につかまり、一歩一歩、進んでいく。本棚の背板には、大正期の浅草風の幻灯がいくつも映されており、うっとりとして、指の位置を確認することを忘れそうになるが、くるぶしのあたりを牛頭馬頭たちが金棒でこづくので、そのたびに我に返る。しかし、間違いなく、私はこの幻灯を一度は見たことがあり、それがいつ、どこでだったのか、神社の集会所だったかと、思い出せそうで、思い出せない。
ようやく、私は私の革ジャンを着込むことができる。いつものことだが、布屋敷は寒すぎる。