5人で次のようなルールのゲームをやっている。それぞれが自分のマグカップを持ち寄り、テーブルのうえに並べる。さらに、裏側に指示の書かれた紙片を10枚、それらの周りに置く。紙片の指示は、「カップを左隣の人と交換する」、「手元のカップをテーブルの上に戻す」など。こうして、5つの空のマグカップ、10枚の紙片を順番にとっていく。最終的に、自分のマグカップをとったプレイヤーが負け。
他の4人の名前は知らないが、同僚の研究者たちである。夜勤つづきで疲れた顔をしていて、無言である。一緒に夕飯を食べたはずだが、どんな話をしたか、はっきり覚えていない。カフェの丸テーブルでこんなゲームに興じているよりも、みんなさっさとそれぞれの寝床に入ったほうがよいだろうに、と思っていると坊主頭の、マイマイのような顔をした男がおもむろに煙草を吸い始める。
「一本くれる?」
「良いけど、お前、一箱、持っていなかったっけ」
「雨で濡れちゃって」
それは嘘で、このマグカップのゲームに負けたときの罰がどのようなものかわからないけれど、とりあえず、何か会話を交わしておけば、少しだけその罰が和らぐような気がしたのである。しかし、テーブルの下で拳銃を突きつけあっているような緊張感は消えない。ゲームは、どこまで進んだのかわからない。私は煙草をふかしながら、布団のことばかりを考えている。