第559夜「ポロック」
 彼女Fとジャクソン・ポロック展に行く。会場は、すでに廃校になっている奇妙に天井が高い小学校で、夏でもないのに糸瓜の蔓と葉がびっしりと壁面をおおって揺れている。
 受付にはスーツの秘書然とした女性が座っている。私は二人分のチケットを財布から取り出そうとする。そのとき、受付の女性が
「当館の規定にもとづき、財布は没収させていただきます」
 そう言い、私の手から財布をひったくる。そんな規定があるものか。しかも受付嬢は私の財布を彼女自身のものとおぼしき鞄のなかに入れようとしている。私は憤然として、「返してください」と詰め寄り、腕を掴む。
 途端に館内に鳴り響く、警報。
 これはそういうドッキリなのか。それとも現代アートなのか。と考えながら、私を捕縛しにくるであろう係員を待ちうけていると、現れたのは、ヨーダほどの体躯の小柄な中年女性で、一目で館長とわかる。財布の取り合いをしているこちらの仲裁に入るかと思いきや、手持無沙汰にしている彼女Fのナビゲーターを静かに勤めはじめる。そういうサービスか。私は落ち着いて、受付嬢から財布をむしり取る。
 塗料の飛び散ったキャンバスを、飛ばし飛ばし見ながら、急いで館長とFの二人に追いつこうとする。しかし、あきらかに仕返しを企んでいる受付嬢の視線が気になって気になって、もはや何を見ているのか、どういう順路で進んでいるのか、わからない。
 二階部分が吹き抜けになって、天井が鉄骨でささえられたガラス張りの温室のような廊下で、ようやく館長に追いつく。Fはいない。人の一人も通っていない。
「ここから振り返ってご覧なさい」
 私は言われた通りに振り返る。
「太陽の光が眩しいとき、入射角と目じりのかたむきが直角になるようにすると、ちょうど盆に水が注がれるようにきちんと風景をエーテルで満たすことができます」
 なるほど。燦々と降る光がまるでレニ・リーフェンシュタールの映画のワンシーンでも見ているかのように気にならない。とても気持ちが良い。網でからめ捕られたように、四肢が動かなくなる。
 ふと気づくと、館長はずっと先に行っている。陽も傾いている。追いつかなければ、もっといろいろこういう技を聞かなければ、と私も急ぐ。しかし泡を凝固させたような、大小、無数のしゃれこうべが、壁全体から沸いているところで、とうとう見失う。
by warabannshi | 2012-04-08 08:55 | 夢日記
<< 第560夜「リー・ハラハ・ゴン... わらしべ 其の一 >>



夢日記、読書メモ、レジュメなどの保管場所。
by warabannshi
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
twitter
カテゴリ
全体
翻訳(英→日)
論文・レジュメ
塩谷賢発言集
夢日記
メモ
その他
検索
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月
2023年 06月
2023年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 10月
2021年 06月
2021年 04月
2020年 12月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 01月
2019年 11月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 02月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 11月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 01月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2005年 08月
2004年 11月
2004年 08月
その他のジャンル
記事ランキング