井上武彦のアシスタントになるための面接を、彼自身から、彼のオフィスで受けている。白を基調としたスタイリッシュな事務用品が並んでいる。窓ガラスは大きく、ここ十年、曇天しかうつしていないとでも言うかのように、ずんぐりと分厚い。
「画を見せてもらいました。及第点です」
坊主頭の井上武彦が言う。
「お聞きしたいのは、端的に生活習慣についてです。守ってほしいことが二つあります。一つは、午前八時までに必ず仕事場に来ていること。例外はありません。もう一つは***(忘却)」
「大丈夫だと思います」
私はすぐに言いなおす。
「大丈夫です」
「では、最後にもういちど、私の前で画を描いてくれますか。なんでも結構です」
私は手早く、A4版のコピー用紙に犬の絵を描く。
「その裏に、その絵が、あるいはその絵を描くあなたが、あなたの周りの誰のどのような支えのもとでいまの形になったのか。そして、これからその絵とあなたが、誰を支えうるか。それぞれ一五〇人、リストアップしてください。
終わったら、帰っていただいて結構です。おつかれさまでした」