友人Sと友人Nと私の3人で夕焼けの観測をしている。石灰質の水平な荒野に、遮蔽物は駅舎くらいしかない。見晴らしは最高に良い。ただし、今日は太陽が雲のなかに落ちていく日なので、立ったまま観測することはできない。3人でヨガマットに寝転んで、太陽が雲塊に呑まれていく状況を、それぞれのICレコーダに吹き込む。
私は誰かに向けて、落日の質感を説明しようと努める。じつのところ、焼けた石炭に、しゃぼん玉を吹きつけるような無力を感じている。こんな説明では、まったく夕焼けを再現することなどできないだろう。巨大な雲塊の凹凸は、赤のグラデーションによりはっきりと現れている。あまりに赤が濃い突端は黒ずんで見える。雲はいよいよ燃えて発光する。その雲にまったく届かないにもかかわらず、語彙が強制的に雲の方へ抜き取られていき、激しく痛みを感じる。
静かな視界に、無数の渦が生まれる。
「もう行くよ」
Sが上半身を起こして、帰り支度を始める。すでに空気は蒼さのなかに没しつつある。
「少し待てる? もう撤収する」
「大丈夫」
SもNも言葉が少ないのは、夕焼けに語彙の相貌をあわせてしまったためである。背中と地面のあいだに敷かれていた薄いマットを丸め、薄暗い道を駅舎まで歩き、3人で無言のまま切符を買う。切符を自動改札に入れると、半券の代わりにカップ酒が出てくる。