その巨大な絵画は、遠目からは十字架が描いてあるようにみえる。近寄ると、横軸にあたる部分は漆喰で塗られた壁であり、一列に並んだ30人余りの人々の後ろで酷く汚れている。さらに近寄ると、東欧の共産圏で配給されていそうな寒々しい色合いのコートに身を包んだ男たち女たちは皆、銃殺されていることがわかる。しかし、誰一人として頽れた者はなく、銃殺の瞬間を忘れさせないように立ち尽くしている。それが無言のプロテストを示しているのかと思いながら、さらにその巨大な絵に歩み寄っていくと、人々の亡骸は左右に分かれた壁にそれぞれ荒縄のようなもので、壁ごとまとめて縛られて固定されていることがわかる。それぞれの荒縄は、左右のそれぞれの壁のもっとも外側にいる2人の男によって、反発しあう磁石の両極のように渾身の力をこめて引っ張られている。その縄をよくよく見てみれば、それは彼ら自身の腹部から引き出された鈍色の腸である。
酷く気分が悪くなり、ざらついたテクスチャから目を背けようとしたが、私が立っているのはその処刑現場の正面であり、1匹の大きな蠅が耳殻にとまる。