慎ましやかなアップライトピアノのある応接室で、ある論文の序文の翻訳をしている。原文は英語で書かれているのか何なのか、よくわからない。プリントアウトした紙束を手に、床に置いてある犬の餌皿をひっくり返さないように注意しながら、さほど広くない応接室をぐるぐると熊のように歩き回る。そして、ある程度、内容が掴めたように思えたので、ピアノの黒い蓋を開け、シュレッダーにかけるように、紙束を鍵盤に食べさせる。すると、その内容にあわせて、旋律が弾かれる。ジェイソン・ムラーズの"I'm Yours"に似た、戸惑いと陶酔がまざったような出だしで、私はそれに合わせて翻訳をはじめる。
「この本は他の多くの本と同じように、読者の喜びや哀しみ、躊躇や小心さに寄与するために書かれた」。
以下、忘却。