波止場をもつ街におけるさまざまな景色の断片。
――街灯。建築やデザインに疎いのでなんというのかわからない。ロマネスク様式、という言葉だけが浮かんでくるが、それが果たしてこの街灯を形容するのに妥当かどうか、やはりわからない。昔、ガス式の街灯にいちいち火を灯していた男が、ある日突然、街灯が電気式になるからという理由で首になったとき、そのときに初めて新しい光をこの波止場の街にもたらしたであろう、年代ものの街灯である。同じような街灯は、この街に何本かある。この街灯は、広場に1本だけ立っている。
――船出。船が曳航する白波をデッキから眺めておろしているだけで、すでに帰りたくなっていますね、と、船の上でビデオカメラに向かってしゃべっているのは他ならぬ私で、なにを気取っているのかと思う。一体全体、誰がこのビデオカメラを回しているのだろうか。
――犬たち。巨大な犬たちは、波止場のあるこの街の人々と見分けがつかない。しきりに撫でてもらいたがっている者がいれば、それは人ではなく、犬である確率が高い。夜、若い母親と幼い兄妹が広場を散歩しているところに酔っ払いが出くわした。酒精にひたった頭に特有の馴れ馴れしさを発揮して、彼がその親子に近づいていくと、(以下忘却)