五年ぶりに、山岳修行施設に行った。
山岳修行施設がどこにあるかは、知らない。
でも、標高はケタ違いに高いのは知ってる。というか、わかる。
富士山山頂とか、マッターホルンみたいな、岩ばっかりの景色を歩いていく。
歩いているのは、うちじゃなくて、見知らぬ少年だ。
なんで、うちじゃないのか?
だって、うちは山岳修行施設がどこにあるかは、知らないんだから。
少年は、髪の毛が逆立っていて、なんとなく、ジャンプマンガの主人公にいそうなタイプ。
人気投票とかやると、必ずベスト5に入ってくるような。
やっぱり、修行が似合うのは主人公キャラだよ。
でも、直情径行型のキャラクターって、いまは主人公にならないのか? どうだろう?
「当然、施設には風呂なんてないし、そもそも睡眠時間だってない」
と、唐突にどこからか聞こえてくるナレーション。
マンガのコマの、吹き出しじゃない、四角い枠で囲われたところに書かれた文章、みたいな感じで、誰の声でもない声は続ける。
「ただ一時間だけ、心を無にすることが許されている」
少年は、岩ばっかりの景色を歩いていく。
酸素が薄い。息が白い。
「だから、ある者は心が折れてしまう」
山岳修行施設の中は、けっこう近代的だ。
各部屋にわかれているし、扉には鍵もかかる。お湯も沸かせる。
「まず、最初に、自分の姿を恐がるようになる」
老婆が、自室に戻ってきて、鏡を見て凝固する。