新大久保と西武新宿のあいだの道路。
うちは左腕の関節から先がはずれてしまい、途方にくれている。
近くに写真屋があったので、電池を買い、白くのぞいている骨と骨をつなぐ。
応急処置だ。
でも、若干の不安がのこる。
上板橋にある高校に行って、腕を縫い合わせることにする。
なぜか生物部の部室に小説と写真をやってるNさんがいる。
Nさんは『鳩』という題名の映画のロゴが入ったビニール袋を膨らませている。
「あ、キム・ギドク監督作品ですね! 見ましたよ」
とうちは言う。
Nさんは無言でうなづきながら、いくつもビニール袋をふくらませる。
けれど、キム・ギドク監督は『鳩』なんて映画は撮っていない。
外れてしまった腕を治すことをすっかり忘れて、後輩とメアドを交換していると、
「ちょっと、美術室からおれの作品とってきてくれる?」
とNさんに言われる。
ヒマなので、了承し、渡り廊下でつながっている美術室に向かう。
廊下を歩きながら、Nさんは盗作するつもりだと予感する。
美術室には、サルバドール・ダリのどろどろに溶けた時計の絵(『記憶の固執』)、五メートル四方くらいのやつがあって、ものすごいニスの匂いが立ちこめている。
ダリの絵なのに、うちはこれをモネの絵だと思っていて、
《Nさんは盗作するつもりなんだ》
という予感が確信に変わる。
間違いない。Nさんは、『鳩』のビニール袋に入れて、この作品を持ち出すつもりだ。
けれど、それは盗作ではなくて、盗難であることに、うちは気がついていない。
銃声がいくつか、校門のほうで聞こえる。