幕末らしい。袴をつけた、誰かわからない偉丈夫の視点を借りている。(なんとなく三人称的)
偉丈夫-うちは、弓道の練習にいそしんでいる。
弓道場は、うちが通っていた中学の渡り廊下で、的は巻き藁に汗でだらだらの剣道着を着せてあるものがずらっと並んでいる。床はリノリウムだったか、木張りだったか、忘れた。
男装している、じつは女性、という設定の痩身の隊員(?)に耳元で何ごとかを囁かれ、みごとに的を外す偉丈夫。
二本とも射てしまったので、A、B、C、D、……と太さ順に分けられたホルダーから、あたらしく矢を調達する。
「××(偉丈夫の名前)が使わなきゃならんのはこっちだろう!」
中学時代の友人Aが、卑猥なニュアンスでFと書かれたホルダーの一番太い矢を指し示す。弓道場に居合わせた他の隊員たちがどっと笑う。
「ああ、お前の肛門にぴったり合いそうじゃのう」
威嚇的に答える偉丈夫。
じゃのう? 広島弁? もしくは土佐藩?
「××さんは矢なんていらないんですよ」
そう言いながら、威嚇している偉丈夫の股間をさりげなく矢の羽側で叩いていく男。
キレる偉丈夫。
右手でその男の首をしめて、壁にたたきつけたまま、ずりずり持ち上げる。
人指し指と親指が喉仏に食い込んでいるのに、男は薄笑いをやめない。謝罪もしない。
両手で首を絞めるが、軽く口元に泡を吹いただけで、男は声なく笑いつづける。
1994年公開のアメリカ映画「トゥルーライズ(True Lies)」で、いまはカリフォルニア州の知事をやっているアーノルド・シュワルツェネッガーが、敵スパイをぼこぼこにしたすえに、彼を断崖に片手でつるし上げるシーンがありました。(あったはず)
「さあ、吐け! いまお前を支えているのは左腕だ。利き腕じゃないんだぞ!」
でも、このシーンでシュワルツェルッガーは相手の喉を絞めているんです。(たしか)
これでは喉仏がつぶされて、自白もできません。
――というシーンを彷彿とさせる、キレた偉丈夫。