複雑に入り組んだ地下鉄の構内を、E.T(エンターティメント・ティーチャー)と歩いている。E.Tとは端的に言えば授業が面白い先生のことなのだが、見た目も怪異で、担当科目にほとんど狂信的な愛情を持っていることが必要。ちなみに、隣を歩いているE.Tは顔のパーツがどれもこれも立方体か半球でできているポリゴンみたいな人。担当科目はわからない。解剖だったかもしれない。
「750円の切符を買うときに、いったい幾つまで五〇円玉は投入することがわたしたちには許されるでしょうか?」 「試してみれば、いいんじゃないですか?」 自分も先生なので、E.Tの質問を軽く受け流す。 この地下鉄の構内には前にも夢で何回か来たことがある。ここは動物園行きの電車が出るホームのある駅だ。といっても新宿西口地下ではない。井の頭線のどこかの駅のはずなのだが、井の頭線はすべて地上に駅がある。神泉駅がかろうじて半地下っぽい造りになっているが、複雑さの点でいま歩いている地下鉄の構内とはまったく異なる。エスカレーターはいたるところで昇ったり下ったりしている。少なくとも八本の路線がこの駅の発着口からは伸びている。巨大な発着口は天井がすべてガラス張りで、陽光を直接取り入れる仕組みになっている。とても暖かそうだが、じつはそうでもない。そこらへんのなってなさが、百年前のパリ万博で、近代文明を誇示するためだけに造られたモデルとしての駅のようだ。というか、パリの北駅か、ロンドンのワーテルロー駅がこんな感じだった気もする。「この駅には前にも夢で何回か来たことがある」と思うのは、そのせいだろうか。「実際に来たことがある」場所と、「夢で(あるいは本やマンガを読んで)来たことがある」場所は、どちらのほうが懐かしく思えるのだろうか? 歩いているうちに、いつの間にかE.Tはいなくなっている。 切符売り場に着くと、若いカップルがなかなか切符が出てこないので券売機の前で騒いでいる。男の方が、駅員を呼びにいったので、すかさずE.Tの言っていた問い(いくつまで五〇円玉は投入できるのか?)を検証する。 五枚くらいであふれてしまう。 「だから、故障中なんですよ」 後ろにいる駅員がそっけなく言う。「だから」はどういう意味なのか、「五〇円玉が五枚しか入らないから」なのか、「だから故障中だって言ってるじゃないですか」なのか、よくわからない。 電車のボックス席のなかでは、十歳未満の姉弟が、それぞれ頭蓋骨で遊んでいる。 まだ微妙に肉、というかプリンのように黄色い脂肪が頭蓋骨についていて、それを姉弟はていねいにこそげ落として磨いている。 姉のほうはちょっと知的障害があるらしく、弟に話しかける言葉が明瞭でない。けれど、弟は姉と応答して、頭蓋骨を磨く、硬い草を束ねたタワシを姉に渡したりしている。二人とも浅黒い肌をしているから、もしかしたら日本人でないのかもしれない。姉は知的障害ではなく現地のことばしかしゃべれないだけで、弟は日本語もしゃべれるのではないか。けれど、姉が年不相応にぽーっとしているのはたしかだ。 その姉弟が頭蓋骨を磨いている隣のボックス席では、どう見ても日本人の女性の四人組が近頃の恋愛の安っぽさについて嘆息しあっている。 「ほんとう、安っぽさといったらマクドナルドなみよね」
by warabannshi
| 2008-02-26 09:52
| 夢日記
|
by warabannshi
twitter
カテゴリ
全体翻訳(英→日) 論文・レジュメ 塩谷賢発言集 夢日記 メモ その他 検索
以前の記事
2024年 03月2024年 02月 2023年 06月 2023年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 10月 2021年 06月 2021年 04月 2020年 12月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 01月 2019年 11月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 02月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 01月 2016年 11月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 01月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2005年 08月 2004年 11月 2004年 08月 その他のジャンル
記事ランキング
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||