井の頭線・永福町駅には南北に商店街がある。この二つの商店街は、セールやお祭りをやるにしてもたいてい別々の日程を組むのだが、今回は両方の商店街がお祭りをやっている。
北口で魚屋が、ものすごいセールをやっているらしい。
南口に住んでいる自分は、いそいそと北口まで買いに行く。
(※ちなみに、起きているときの家は北口側にある。南口側に住んでいたのは五年前の春に、家の建て替えをやった、その半年間だけだ。)
「いまなら1680円のこの数の子が998円!」
魚屋風のおじさんががなっている。アメヤ横町みたいだ。
あまり安くなっていないようだが、それまでも相当値下げしているのだろう。
よし、買おう。と思って財布を見ると、中身がない。
昨日、飲みで全部使ってしまったのだ。
(※人文死生学研究会のあとの懇親会で、有り金を全部使ってしまったのは本当。)
仕方がないので、家に電話をかける。なぜか香取慎吾が電話にでる。
「誰か、家にヒマな人はいませんか?」
「あ、俺がヒマだよ」
「じゃあ、うちの部屋のドアを開けた、すぐ左の本棚の引き出しに札入れがあるので、一万円をもってきてくれますか」
「いいよ。五分くらい、踏み切り前のファミマで待ってて」
香取慎吾にパシりをさせたことが知られたら、彼女に何と言われるかわからない。
ファミマでおにぎりの値段を眺めていると、電話が鳴る。
高校の友人Sからだ。
「あ、一万円もってきたけど、いまどこ?」
「ファミマでおにぎりの値段を見ているよ」
どうやら彼がパシらされたらしい。
Sは南口の店の半開きのシャッターを律儀に閉めながら、ファミマに向かってくる。
なぜか泣いて抱き合ううちら二人。懐かしいだけでは、こうは泣けない。