希少石の即売展に来ている。たぶん、銀座。
トルコ石を掘り抜いて作った指輪などが並んでいるなかで、二つの、卵状の半透明な石を見つける。
二つとも、中心部には引っ掻いたような細かい疵が無数にあり、中心から少し逸れたところに三角形の赤い石が入っている。一方は六千円で、もう一つは二万円。値段ぐらいしか、二つの石のあいだに差異はない。けれど、どうしても二万円の方の石が欲しいな、と思って迷っていると、
「いかがですか、お奨めですよ」
船場吉兆の記者会見で謝罪していた老女将にそっくりな売り子さんが来る。
「薄いフィルターを何枚も圧縮加工しました。赤い三角形はショートケーキの苺をイメージしています」
もう一回、よく石を見てみると、薄い層が均等に何十枚も堆積することによって卵の形を為していることがわかる。
なんだ、人造石か。
じゃあ、内部の疵はなくてもいいわけね。
おまけにショートケーキの苺ってなんだよ。
一気に買う気がなくなって、石を棚に戻そうとすると、周囲がいつの間にか靴屋になっている。卵状の石も、卵状のスポーツシューズになっている。
[銀座マダムたちの靴が 歩いている途中で分解]
というテロップと共に、高価で粗悪な靴を売りつける靴屋の映像が放映される。
まさにいま、うちが卵状の人造石だったスポーツシューズを棚に戻している、その靴屋だ。