伯父の歯科医院で、都内で起こっている連続殺人の真相を聞いている。
「これが、被害者の延髄から見つかった。本来は、見つかってはいけないものだ」
伯父が持ってきたのは、一ミリ四方もない極小のチップ。銀色で、金属製であることはわかるが、表面はつるつるしている。
「なでると、起動する」
指先でなでてみると、不意に、チップから極細の六本の足が生え、アシナガグモのような形状になって、素早い動きで指先から逃げ出してしまった。
慌てて、そこら中のものをひっかき回して銀色のアシナガグモを追う。
「この“コンパクト”は、人類の科学史のターニング・ポイントで現れてきた。蒸気機関の発明のきっかけになったのも、この“コンパクト”だと言われている。
でも、“コンパクト”の駆動因は、いまだにわかっていない。たった二種類しかないにもかかわらず、だ」
銀色のアシナガグモを探しているうちが、ふと顔をあげると、銀色のトンボが宙を舞っている。
コンパクトの駆動因は、「なでられること」「羽になること」の二つだ。と思う。