カテゴリ:夢日記( 720 )
第730夜「悪夢」
 筆舌に尽くしがたい悪夢を見る。筆舌の尽くしがたさは、まずその夢の複雑怪奇さにある。アナログテレビの砂嵐のありとあらゆる砂粒に固有名があり、一粒として同じものはなく、それらの位置と運動についての認知は何ら曖昧さを付与されることなく一瞬ごとに頭の中に流れ込んでくるような、呵責のない複雑さ、そしてその複雑さがすでに始まってしまっているという怪奇さが、この夢を耐え難いものにしている。逃れようと身動ぎをするたびに、樹木や鳥の形象がまるで救いのように思い浮かぶが、それらの形象はまったく、何の役にも立たない。内容的に悪夢かどうかはさておいても、質量的には疑いようもなく悪夢である。例えば、どのよう内容の音であっても、音圧が巨大であれば、音そのもので小さな羽虫が潰れて死んでしまうように、人もまた、解釈を怠ったまま久遠そのものに接すればたやすく消し飛んでしまう。
by warabannshi | 2018-09-05 02:37 | 夢日記
第729夜「18」
 18は頼れる数字。そんな想念とともに、髪の間からぼろっと18が洗面台の上に落ちる。銀色の鈍い光沢を放つ18は、非常な速さで微振動をしているらしく、寿命が間近の蝉のように喧しい音をたてながら洗面台の上を転げまわる。本当に18は頼れる数字なのか? 訝しく思いながら、せわしく右や左の壁に激突する18を眺めていると、だんだん18が肥満した男性の姿に見えてきて、そのなかには父方の祖父の面影も現れてくる。18の振動はまったく衰える様子もなく、摘まみあげようとすると早々と察して逃げる。
by warabannshi | 2018-09-04 06:56 | 夢日記
第728夜「ドロシー」
 双眼を見開いたまま凍り付いた少女の遺体とその右腕が柔らかな芝生の上に転がっている。先の竜巻に巻き込まれ、空中高く舞い上がり、そしていままさに落下してきたのだろう。彼女の命を奪ったのが、酸欠なのか、あるいは低温なのかはわからない。ただ、その角膜は、彼女が最後に見た景色をまだ記憶している。
by warabannshi | 2018-08-13 07:26 | 夢日記
第725夜「余殃」
「あのとき助けていただいた、あなたの心です」
by warabannshi | 2018-07-14 17:42 | 夢日記
第724夜「湖」
 指折り数えきれないほどの理由によって本来であれば足を踏み入れてはならない湖に、肩まで浸かっている。水は恐ろしく澄んでおり、夜の闇のなかでもなお、視認性の浸透圧によってこの異物たる私の体を溶かしにかかってくるようである。浮いているのか、立っているのか、痺れたようになっていて判別がつかない。
「1人だけ余っているな」
「そう言ってくれるな」
 他にも湖には何人かの子供が浸かっているようである。私は子供らに連れられてこの湖に遊びに来たような気がするが、それも痺れたように思い出せない。上限の月以降の月光がちらちらと水面に乱反射し、眼の奥で像を結びかけては消える。
「書痙脱藩というのを知っているか? 脱藩は見つかれば死罪だが、書物を著し広く世に問うことを目指すためのそれならば見逃されることもある。以前、若い侍が脱藩の罪に問われて往来で斬り殺された。罪人のため遺骸は没収となったが、その妻は夫が書痙脱藩者であることを訴え、遺骸の返還と埋葬の許可を求めた。これについてどう思う?」
 妻は遺骸を本当はどうするつもりなのだろう? 埋葬せず、隠し持って愛でるつもりなのではないか? 私はぼんやりと、五体を包む水を掬い、一口飲む。
「軟水だね」
「ああ、本当にやわらかい」

by warabannshi | 2018-05-15 03:59 | 夢日記
第723夜「印」
 間もなくの死を運命づけられた者の眉間には、目覚めることが許された最後の眠りのあいだにジャムが滴下される。病弱な子の親がどれほど覆いをかけようとも、然るべき時が来ればその眉間には数粒のジャムが印として滴下される。ジャムを滴下するのは臈たき天使の類ではなく、物言わぬ猩々の毛から分化した自動的な小鬼である。長年連れ添った夫婦の片方が、ある朝に相手の眉間に光る数粒を見つけたとき、それを舐めとることを持って供養とする。
by warabannshi | 2018-04-24 12:05 | 夢日記
第722夜「分割」
「分割したものをどのように使うかが肝要、故にわたしは8以上の分割をせんのです」とバカボンのパパであるところの私が言う。いったいなぜ。紙媒体の分厚い少年漫画雑誌を先ほど縦に割き、片方をさらに割き、その片方をさらにもう一度割いたからだ。いったいなぜ。バスジャック犯を威嚇するためである。身元不明のバスジャック犯を倒して馬乗りになり、「拳銃を人に向けてはいけない!拳銃を、人に向けてはいけない!」と言いながらその顔を拳で殴る私はおそらく人でなしであり、そのことを自認している。バカボンのパパであることも自認している。だから「これでいいのだ」と何かのタイミングで言ってみたいが、バスジャック犯を殴打するなかで言うべき台詞ではないとも思う。そしてすべてが落着した後、惑星ソラリスの宇宙船のような白い無機質な空間で1人、「わたしは8以上の分割をせんのです」と言う。
by warabannshi | 2018-03-28 04:55 | 夢日記
第721夜「銀ブラ」
 赤い座布団を5,6枚つないだ縄を船べりから垂らした祭り舟から、盛んに鈴の音、笛の音が聞こえる。舗装されていない池の縁にしゃがんで、久しぶりのこの光景を眺める。前にこの祭り舟に遭遇したのはいつだったかわからない。あの賑やかな祭り舟を整備し、動かしている中の人がたった1人であることに驚愕したことは覚えている。「一人で本の中身を書いて版組をやって校正もして表紙もデザインするような感じだよ」と、その祭り舟を動かすとても背の高い若い女性は言った。「まるで同人誌ですね」。「本当にね」。
 この祭り舟は、まだ彼女が動かしているのかわからない。私は立ち上がり、銀座の方に歩きだす。銀座のそこここの街角にも、お祭りの山車が鎮座している。いつのまに祇園祭の山鉾巡行みたいなことが行われるようになったのか。アイスコーヒーを飲みながら、ぶらぶらと歩行者天国を歩いていると、友人Tと出会う。
「銀座もこういうことするようになったんだね。それとも前からしてた?」
「雲があんなんだからね」
 見上げると、青空の端から端まで、ドットのように整然としたうろこ雲が散在している。
by warabannshi | 2017-07-15 08:17 | 夢日記
第720夜「流氷」
 北国の辺鄙な地域を乗合バスで走っている。窓の外は見渡す限りの荒原で、澄んだ空とあいまって、視界をロスコの抽象画のように二分している。舗装が悪いのは仕方がないとして、埃っぽいのには閉口する。マスクをしてくればよかったと思う。単なる粘土質の埃ではなく、乾燥した蘚苔類の微片が混ざっているらしく、鼻から入ったそれらか、舌の上で湿気を取り戻し、再びおが屑のような苔に戻る。何度も吐きだしているが、際限がない。隣席のFから使い捨てマスクの余りをもらいたいが、ずっと眠っている。
 バスはいつの間にか、山道に入り、そして海へとたどり着く。ちょうど流氷が漂着しており、おそろしいほど無機質に青い水とのコントラストが、魂の底を白々とさせる。隣席のFを揺すって起こそうとするが、起きない。こういうのは写真で撮っても後で感動が薄れるばかりなので、何としてもじっさいに見るのが一番だ。しかし起きない。ようやくここにきて、この眠りが昏睡に近いものであることがわかる。とはいえ、為す術はない。
 運転手にちょっとバスを止めてもらう相談をしようかと思う。しかし、道の先を見ると、まるで首長竜が首を伸ばしているかのような信じられない傾斜の、ガードレールも何もない橋を、バスはいままさに渡ろうとしている。運転手の集中力を削ぐのは得策ではない。私は昏睡しているFの代わりに、流氷と海水面を見る。
by warabannshi | 2017-06-11 06:25 | 夢日記
第719夜「かくあるべし」
 御朱印がたくさん押されているほぼ正方形の重い色紙の四辺にはそれぞれ二字熟語が1つずつ書いてある。四辺のどこに何が書いてあるかわからない状態で、四辺のうちからどれか一辺を選ぶ。そこに記されている言葉が選んだ者にとって刺青のように逃れようのない指針となる。そういう正月や盆に行う儀式がある。無個性な一室で、私は四角いテーブルに着き、3人の名前を知らない同僚とともに、この作業を行っている。私は色紙の表側を見ることはできないが、臨席している者は表側を見ることが許されている。私は座ったまま色紙をかかげ、他の3人の表情を読む。その表情をして、四辺それぞれの吉凶を予め知ろうという賢しらもまた容れられている。
「左右のどちらかにしようと思うんだけど」
 私は誰ともなしにそう言う。3人の臨席者は何も言わない。臨席者は口をきくことを禁じられている。いずれの表情も薄笑いである。
「右手の方は譸って書いてある気がする」
 事実、擦り硝子を透かすかのように、「譸」という字だけは見える。しかし、この漢字を用いる熟語はもちろん、発音の仕方すらわからない。
「長寿とか、そういう意味合いだろうから、右手の方を選んでおけば安心だよ。左手の方は――」
 左の席に座っている同僚が失笑する。笑うことは表情なのか、それとも言葉なのか。
「わからないけれど、選ばない方がよさそうだ。だから、上の辺」
 私は選択し、そして色紙の表を見る。形も大きさも鮮やかさもばらばらの朱色の判のなかに、淋漓たる墨痕で「かくあるべし」と書かれている。色紙に書かれているのは二字熟語ではなかったのか。それとも、この一辺だけ特別なのか。あるいは左に座っている同僚の笑いが何かよくない反応を引き起こしてしまったのか。
 もともとこの上辺には「かくあるべし」と書かれていたかを同僚たちに聞こうとした瞬間、部屋のドアが激しく叩かれる。その振動で、空宙のどこかから物質ではないTrans-という接頭語が数えきれないほど溢れだし、私の頭に注がれる。同僚の1人はドアが破られないように全身を使ってドアへの乱打の衝撃を吸収している。これもまた指針のもたらした試練なのか。「かくあるべし」と宣託された私はどうするべきなのか。
by warabannshi | 2017-05-10 03:59 | 夢日記



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