カテゴリ:夢日記( 716 )
第724夜「湖」
 指折り数えきれないほどの理由によって本来であれば足を踏み入れてはならない湖に、肩まで浸かっている。水は恐ろしく澄んでおり、夜の闇のなかでもなお、視認性の浸透圧によってこの異物たる私の体を溶かしにかかってくるようである。浮いているのか、立っているのか、痺れたようになっていて判別がつかない。
「1人だけ余っているな」
「そう言ってくれるな」
 他にも湖には何人かの子供が浸かっているようである。私は子供らに連れられてこの湖に遊びに来たような気がするが、それも痺れたように思い出せない。上限の月以降の月光がちらちらと水面に乱反射し、眼の奥で像を結びかけては消える。
「書痙脱藩というのを知っているか? 脱藩は見つかれば死罪だが、書物を著し広く世に問うことを目指すためのそれならば見逃されることもある。以前、若い侍が脱藩の罪に問われて往来で斬り殺された。罪人のため遺骸は没収となったが、その妻は夫が書痙脱藩者であることを訴え、遺骸の返還と埋葬の許可を求めた。これについてどう思う?」
 妻は遺骸を本当はどうするつもりなのだろう? 埋葬せず、隠し持って愛でるつもりなのではないか? 私はぼんやりと、五体を包む水を掬い、一口飲む。
「軟水だね」
「ああ、本当にやわらかい」

by warabannshi | 2018-05-15 03:59 | 夢日記
第723夜「印」
 間もなくの死を運命づけられた者の眉間には、目覚めることが許された最後の眠りのあいだにジャムが滴下される。病弱な子の親がどれほど覆いをかけようとも、然るべき時が来ればその眉間には数粒のジャムが印として滴下される。ジャムを滴下するのは臈たき天使の類ではなく、物言わぬ猩々の毛から分化した自動的な小鬼である。長年連れ添った夫婦の片方が、ある朝に相手の眉間に光る数粒を見つけたとき、それを舐めとることを持って供養とする。
by warabannshi | 2018-04-24 12:05 | 夢日記
第722夜「分割」
「分割したものをどのように使うかが肝要、故にわたしは8以上の分割をせんのです」とバカボンのパパであるところの私が言う。いったいなぜ。紙媒体の分厚い少年漫画雑誌を先ほど縦に割き、片方をさらに割き、その片方をさらにもう一度割いたからだ。いったいなぜ。バスジャック犯を威嚇するためである。身元不明のバスジャック犯を倒して馬乗りになり、「拳銃を人に向けてはいけない!拳銃を、人に向けてはいけない!」と言いながらその顔を拳で殴る私はおそらく人でなしであり、そのことを自認している。バカボンのパパであることも自認している。だから「これでいいのだ」と何かのタイミングで言ってみたいが、バスジャック犯を殴打するなかで言うべき台詞ではないとも思う。そしてすべてが落着した後、惑星ソラリスの宇宙船のような白い無機質な空間で1人、「わたしは8以上の分割をせんのです」と言う。
by warabannshi | 2018-03-28 04:55 | 夢日記
第721夜「銀ブラ」
 赤い座布団を5,6枚つないだ縄を船べりから垂らした祭り舟から、盛んに鈴の音、笛の音が聞こえる。舗装されていない池の縁にしゃがんで、久しぶりのこの光景を眺める。前にこの祭り舟に遭遇したのはいつだったかわからない。あの賑やかな祭り舟を整備し、動かしている中の人がたった1人であることに驚愕したことは覚えている。「一人で本の中身を書いて版組をやって校正もして表紙もデザインするような感じだよ」と、その祭り舟を動かすとても背の高い若い女性は言った。「まるで同人誌ですね」。「本当にね」。
 この祭り舟は、まだ彼女が動かしているのかわからない。私は立ち上がり、銀座の方に歩きだす。銀座のそこここの街角にも、お祭りの山車が鎮座している。いつのまに祇園祭の山鉾巡行みたいなことが行われるようになったのか。アイスコーヒーを飲みながら、ぶらぶらと歩行者天国を歩いていると、友人Tと出会う。
「銀座もこういうことするようになったんだね。それとも前からしてた?」
「雲があんなんだからね」
 見上げると、青空の端から端まで、ドットのように整然としたうろこ雲が散在している。
by warabannshi | 2017-07-15 08:17 | 夢日記
第720夜「流氷」
 北国の辺鄙な地域を乗合バスで走っている。窓の外は見渡す限りの荒原で、澄んだ空とあいまって、視界をロスコの抽象画のように二分している。舗装が悪いのは仕方がないとして、埃っぽいのには閉口する。マスクをしてくればよかったと思う。単なる粘土質の埃ではなく、乾燥した蘚苔類の微片が混ざっているらしく、鼻から入ったそれらか、舌の上で湿気を取り戻し、再びおが屑のような苔に戻る。何度も吐きだしているが、際限がない。隣席のFから使い捨てマスクの余りをもらいたいが、ずっと眠っている。
 バスはいつの間にか、山道に入り、そして海へとたどり着く。ちょうど流氷が漂着しており、おそろしいほど無機質に青い水とのコントラストが、魂の底を白々とさせる。隣席のFを揺すって起こそうとするが、起きない。こういうのは写真で撮っても後で感動が薄れるばかりなので、何としてもじっさいに見るのが一番だ。しかし起きない。ようやくここにきて、この眠りが昏睡に近いものであることがわかる。とはいえ、為す術はない。
 運転手にちょっとバスを止めてもらう相談をしようかと思う。しかし、道の先を見ると、まるで首長竜が首を伸ばしているかのような信じられない傾斜の、ガードレールも何もない橋を、バスはいままさに渡ろうとしている。運転手の集中力を削ぐのは得策ではない。私は昏睡しているFの代わりに、流氷と海水面を見る。
by warabannshi | 2017-06-11 06:25 | 夢日記
第719夜「かくあるべし」
 御朱印がたくさん押されているほぼ正方形の重い色紙の四辺にはそれぞれ二字熟語が1つずつ書いてある。四辺のどこに何が書いてあるかわからない状態で、四辺のうちからどれか一辺を選ぶ。そこに記されている言葉が選んだ者にとって刺青のように逃れようのない指針となる。そういう正月や盆に行う儀式がある。無個性な一室で、私は四角いテーブルに着き、3人の名前を知らない同僚とともに、この作業を行っている。私は色紙の表側を見ることはできないが、臨席している者は表側を見ることが許されている。私は座ったまま色紙をかかげ、他の3人の表情を読む。その表情をして、四辺それぞれの吉凶を予め知ろうという賢しらもまた容れられている。
「左右のどちらかにしようと思うんだけど」
 私は誰ともなしにそう言う。3人の臨席者は何も言わない。臨席者は口をきくことを禁じられている。いずれの表情も薄笑いである。
「右手の方は譸って書いてある気がする」
 事実、擦り硝子を透かすかのように、「譸」という字だけは見える。しかし、この漢字を用いる熟語はもちろん、発音の仕方すらわからない。
「長寿とか、そういう意味合いだろうから、右手の方を選んでおけば安心だよ。左手の方は――」
 左の席に座っている同僚が失笑する。笑うことは表情なのか、それとも言葉なのか。
「わからないけれど、選ばない方がよさそうだ。だから、上の辺」
 私は選択し、そして色紙の表を見る。形も大きさも鮮やかさもばらばらの朱色の判のなかに、淋漓たる墨痕で「かくあるべし」と書かれている。色紙に書かれているのは二字熟語ではなかったのか。それとも、この一辺だけ特別なのか。あるいは左に座っている同僚の笑いが何かよくない反応を引き起こしてしまったのか。
 もともとこの上辺には「かくあるべし」と書かれていたかを同僚たちに聞こうとした瞬間、部屋のドアが激しく叩かれる。その振動で、空宙のどこかから物質ではないTrans-という接頭語が数えきれないほど溢れだし、私の頭に注がれる。同僚の1人はドアが破られないように全身を使ってドアへの乱打の衝撃を吸収している。これもまた指針のもたらした試練なのか。「かくあるべし」と宣託された私はどうするべきなのか。
by warabannshi | 2017-05-10 03:59 | 夢日記
第718夜「インク壺」
 断頭され、大袈裟な机の隅でインク壺として置かれている。頭頂部をくりぬかれ、ブルーブラックのインクを注がれているおかげで、目を開けていられない。ふとした拍子に涙の代わりにインクが眦から零れてしまいそうになるからだ。それを拭う手も今はない。緞帳のようなカーテンの吊られた薄暗い書斎のなかでは宙を舞う埃の微粒子くらいしか見るべきものがないのは救いである。大人しく瞼を閉じて、主人の帰りを待つ。もしボルヘスの『幻獣辞典』に出てくる、赤い眼をした漆黒の毛並を持つ、インクを飲む猿が忍び込んで来たら、私はどのように自衛すれば良いだろうか。いろいろと考えているうちに、何かが触れ、無性に思い出し笑いがこみ上げてくる。我慢しようとしてもしきれない。笑ったりなどしたらインクが漏れてしまう。そう思えば思うほど、ぐるぐると笑いが後頭部あたりで渦を巻き始める。噎せるようにして笑いが口を吐く。インクの飛沫がかすかに散る。これくらいなら良いだろう。私は私の忠義ぶりに満足する。
by warabannshi | 2017-05-08 06:25 | 夢日記
第717夜「ジャグリング」
 閉園した遊園地の空の開けた階段状の広場で1人でジャグリングの練習をしている。IKEAの白いマグカップを10個ほど空中に投げては両手ですべて回収するという芸で、たいていすべては回収できず、破片が散らばることとなる。街灯の影がちらちらしていているせいで成功率が上がらない。マグカップを放っては受け止める、放っては受け止める、を繰り返しながら、影にならないところを探して歩いて場所を移動すると、《月光とピエロ》 「Ⅳ.ピエロの嘆き」が流れてくる(月はみそらに 身はここに)。ここが良いだろうという角度を探しあてて、ふと、周りを見渡すと、数百万個の親指の先ほどの小さなマグカップが桜の花のように散らばっている(身過ぎ世過ぎの 泣き笑い)。
※その頃のピエレット:贔屓のバンドの十八番を耳コピした楽譜を脇に抱えて、ライブハウスで頭を振る。彼女自身の誕生日を昇華する場所を選べばこのようになる。
by warabannshi | 2017-04-18 01:46 | 夢日記
第716夜「楽園追放」
 部活を終えて高校の教室に戻ると、談笑していた何人かのクラスメイトがいっせいにこちらを向く。どの視線にも、膨らんだ風船に針を近づけていくような好奇心がある。窓際の私の机を見ると、その上には夢の記録が書き溜めてある方眼ノートが置いてある。もちろん露出癖ゆえではない。誰かが私の鞄から引っ張り出したのだろう。逡巡を表情にださないようにして、私は自分の領域たる机に歩みより、そして方眼ノートを手に取り、思い切り引き裂く。理由は2つある。1つは、これからのからかいの芽を摘むパフォーマンスの必要性を感じたため。もう1つは、その方眼ノートは使い始めたばかりで、数ページしかメモが書かれていなかったためだ。縦と横に、それぞれ1回ずつ引き裂かれたノートを、しかし私は教室の後ろのごみ箱に捨てるわけにもいかないので、私はそれをトイレに流しに行く。燃やすことができれば最高なのだ。《プッチーニ》のロドルフォの原稿のように。しかし、あいにくここは高校の教室で、問題の種を潰すために新たな問題の種を蒔くわけにはいかない。トイレに流すためにはさらに細かく紙片をちぎらなければならないが、それをこの場でするのは女々しい印象を与えかねないので、私は教室を出る。
 その方眼ノートに書かれていた夢の記録の内容は、断片的には以下の通り。
・近未来、地球環境の変化により、ヒトが衣服なしで高温低温、乾燥などさまざまな環境に耐えられるようにする必要性を受けてなされる生体実験の一環。「人間が再び衣服を捨てることとなったら、それは楽園追放と呼ばれうるのか」。事実、被験者の体毛は濃くなり、四足歩行に向いた体つきとなる。
・湯に溶かすと卵スープのようになる粉末食を食べる被験者の少女。粉体は、加工される前は彼女の母親であった。彼女がそれを知るのは訓練の仕上げである。少女の父親の手記「9万円と引き換えに牛のように売られていった」
・天体望遠鏡。
by warabannshi | 2017-03-02 09:03 | 夢日記
第715夜「poor English」
 さまざまな国籍のさまざまな分野の研究者たちが80人ほど、ベイエリアで立食パーティをしている。知り合いはおらず、交わされるのは英語と仏語、あとはそれぞれの母国語なので、私はスマイル担当を自認して、にこにこしながら料理を美味しく食べている。不意に、巨大な灰色な紙袋が海風にさらわれて空高く舞い上がる。南米系の男性が「韓国の友人にもらったお土産だったのに!」と嘆いている。糸の切れた凧のように、巨大な紙袋は芥子粒のように小さく、海上へと飛んでいく。「じっさいのところ、無くなったものは形を変えてあなたにもどってきますよ、そういう諺があります」。私はでっちあげの諺で落ち込んでいる彼を慰める。不意の出来事は、それが幸であれ不幸であれ、会話の糸口になるものだと思う。
by warabannshi | 2017-01-02 10:05 | 夢日記



夢日記、読書メモ、レジュメなどの保管場所。
by warabannshi
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
twitter
カテゴリ
全体
翻訳(英→日)
論文・レジュメ
塩谷賢発言集
夢日記
メモ
その他
検索
以前の記事
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 11月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 03月
2007年 01月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2004年 11月
2004年 08月
2001年 12月
その他のジャンル
記事ランキング